「イスラム女性たちは布で肌や頭を隠していますが、なぜですか?」
「なぜスカーフを着用しなければならないのですか?」
「ヒジャーブは抑圧の象徴ではないでしょうか?」
そんな疑問にお答えします。
女性が髪や肌を隠す宗教的根拠
イスラム教では女性の服装について、①「顔と手以外の部位を隠すこと」②「体の線を見せないこと」の2点を義務づけています。
それぞれはコーランに記されています。
①「顔と手以外の部位を隠すこと」
コーランでは女性に「美しい部分を隠せ」と命じています。
「それから女の信仰者にも言っておやり、慎みぶかく目を下げて、陰部は大事に守っておき、外部に出ている部分はしかたがないが、そのほかの美しいところは人に見せぬよう。胸には覆いをかぶせるよう」
(24章31節)
「美しい部分」とは具体的にどこなのか?コーランには明記されていませんが、学者たちの意見はおおむね「顔と手以外の部分」で一致しています。
つまり「髪」について、コーランに隠せと明記されてはいないものの、多くの学者は「隠すべき」と考える。これが髪を隠す根拠です。
②体の線を見せない
この根拠は「長衣を着る」ことを命じた章句です。
「これ、預言者、お前の妻たちにも、娘たちにも、また一般信徒の女たちにも、(人前に出る時は)必ず長衣で(頭から足まで)すっぽり体を包みこんで行くよう申しつけよ。」
(33章59節)
つまり女性は長衣で身を包み、ボディラインを見せないことが求められる。
*
以上のように①「顔と手以外の部位を隠す」②「体の線を見せない」ことが女性の服装ルール。
このルールさえ守っていれば、あとはどんな服装をするのも自由です。
髪を隠すことについての「女性たちの本音」

トルコの公園でセルフィーを撮る女性。
では女性たちは、宗教の教えに従って、「しかたなく」肌や髪を隠しているのでしょうか?
なぜ髪や肌を隠すのか?その「本音」をインタビューしました。
第一は宗教心
「なぜ髪を隠すのか?」と聞くと、多くの女性は「イスラム教徒だから」「それがムスリマ(イスラム女性)としての正しい行いだから」と答えます。
私が現地で髪を隠していると、「あなたはイスラム教徒なの?」と聞かれます。このように「イスラム女性=髪を隠す」と認識されていることがわかります。
「女性は宝石」
では女性たちは「信者の義務として」しかたなく髪を隠しているのか?
多くの女性は言います。
「紙で包んであるアメとそうでないアメがあったら、人はどっちを食べる? 包んである方でしょう。
むき出しのアメはハエがたかっているかもしれないし、汚い手で触ったかもしれない。
スカーフもそれと同じ。女性の髪が美しい・高貴なものだから包む。包むからますます価値が上がり、尊ばれることになるのよ」
大切な人へのプレゼントは、きれいな包装紙で包みます。女性もそれと同じです。宝石のように高貴で美しい存在だからこそ、美しい部分は隠す。
自分の美しさは大事な人にこそ見せるものであり、不特定多数の男を楽しませるものではない、こういう考えです。
この根底には、「女性は美しいもの」「大切にされるべき存在」という自己肯定感、「女性としての自分を大切にする」という思想があります。
「きちんとした女性」と見てもらえる
宗教の教えに沿った服装をすることで、周囲から「品行正しい女性」「モラルがある人」と見てもらえるという意見もあります。
いわばサラリーマンの背広とネクタイのようなものです。公共の場での扱われ方が違ってくると言います。
結婚しやすくなる
宗教の定める服装コードを守ることで、敬虔さをアピールでき、ひいては結婚相手を見つけやすくなるという意見もあります。
私のエジプトの友人は、10代の頃はヒップラインが見えるGパンを好んではいていましたが、結婚を意識し始めた頃から黒いアバヤ(ガウン)を着るようになりました。
男性は結婚相手に「ちゃんとした」女性を望むもの。イスラム教徒の場合、それは「敬虔な」女性です。
実際、妻について「彼女はちゃんと礼拝すると聞いたから結婚した」と話す男性もいました。
「信心深い女性なら、間違いを起こさないから(不倫など)」とも。
性的ないやがらせが減る
髪を隠すことで、男性のわずらわしい視線をカットでき、性的嫌がらせを受けにくくなる、そんな声も聞かれます。
「ハチミツにふたしないで晒しておいたら、ハエがよってくるでしょう?
それは当たり前よ。いちいち苛立つより、最初から隠してしまった方が賢いわ」
心や才能で魅了する
美しさを隠すことで、美ではなく「心や才能で」男性を魅了することができると考える女性もいます。
「アッラーと私とスカーフと」という日本人女性が監督したドキュメンタリー映画があります。主人公はカナダに暮らす4人のイスラム女性達。彼女達は「スカーフをするか否か」で悩み、家族や周囲の人との関わりの中で、それぞれの道を見つけていきます。
「スカーフをする」と決心した主人公の1人は、そのメリットについてこう語ります。
「美ではなく「心や才能で」男性を魅了することができる」
そして心で男性をひきつけた方が良いと語ります。
「容姿は年をとるにつれて衰えるけれど、心や才能はそうではないから」
「見られる者」から「見る者」へ
別の主人公は、「スカーフをすることで、誰が私を見るかを決めることができる」と語ります。
美しい部分をさらした女性は、見られる側の存在ですが、隠す事で「見せたい相手にだけ」美しさを見せることができる。
見せる相手・見せたくない相手を自分で選ぶことができるのです。
つまりは女性が優位に立つことだ、と言います。
社会進出しやすくなる
ヒジャーブをすることで社会進出が容易になるという面もあります。
イスラム社会では、男女の不必要な接触を禁じるため、男女隔離が原則です。
ヒジャーブが「見えないカーテン」の役割を果たし、社会進出が容易になるのです。
「ベールは「携帯用のカーテン」であり、これを身に着けることで、女性の社会進出を促進される。」
(「イスラームとモダニティ」)
外見で差別されない自由を得る
肌や髪を隠すことで、美醜や年齢で差別されない自由と開放感も得ることができます。
イスラム的服装は「足が太い」「ウェストのくびれがない」などの身体的コンプレックスを隠すことができる。
(だから油断して太ってしまう、という女性はいるようですが)
サウジアラビア女性が身につけるアバヤとニカブが最たるもの。これなら年齢までも隠してくれます。
つまり多くは「被らされている」わけではない
つまり自らの意思で率先してヒジャーブを被っている女性が大多数。
もちろん被りたくない女性も存在します(特に国の法律でヒジャーブ着用を義務付けられているイランの女性に、その傾向が強いようです)が、私の個人的体験では、そのような女性の方が少数派です。
エジプト人と日本人のハーフで、日本でアナウンサー等で活躍する師岡カリーマ・エルサムニーさんは、著書でこう述べています。
「サウジアラビアやイランと違って、女性が肌を隠すことが義務付けられていないエジプトの場合、ベールをかぶっている女性はほとんど全員が、かぶりたいからかぶっているのである。
「イスラームの教えだから守りたい」という気持ちが大前提だが、実は「邪な欲望を抱きかねない男たちなんかに、この髪や足を見せてたまるか」という、少しナルシスチックな面もないとはいえない。
父親や夫に強制されてベールをかぶる女性が皆無とはいえないが、いても例外的なケースである。私が知る何十人という女性の中で、自分の意志に反してベールをかぶっている女性は一人もいない。」
(「エジプト悠久のおもしろ国」)
私たちは自分の立っているところから他人を見がち。
女性が髪を隠す習慣がない日本人から見れば、隠すことは非常に不自由に見えます。
しかし当の本人がどう思っているかは、全く別だったりもします。
モテるのは夫だけでいい
「でも彼女たちだって、外で思いっきり肌を見せたりしておしゃれしたいんじゃない?」
そう思う方もいるでしょう。
不特定多数の男性にチヤホヤされるのは、イスラム女性にとってあまり嬉しいことではありません。
自分を「妻」と認め、大切にしてくれる男性だけにモテればいい。
美しさは人生を共に歩んでくれる男性にだけに見せるもの。
不特定多数の男性にタダで見せるものではない。そういう発想です。
むしろ肌の露出は不要なトラブルのもと。
「モテ」るために頑張らなくていい。これによって気持ちに余裕が生まれます。
男性の「ヴェールを脱がせる楽しみ
隠すことで自分の価値が増すことを、彼女たちはよく理解しているようです。
それによって神秘性が増し、より魅力的に見えることを。
「オマーンの街角で日本人男性と一緒に歩いていた時、チャドルの女性とすれ違うたびに、「隠しているのを見ると、よけい綺麗に見えますよね(笑)」と鼻の下をのばしていた。
何事もあからさまに見せない方が美しい。イスラム圏にいると、そんなことを思ったりする。」
隠されているから、よけい見たくなる。それが人間の心理です。
見たいのに見れない。だからいっそう興味をそそられる。
男性は神秘のベールに包まれた女性の布を一枚一枚はいでいくことに、ワクワクする興奮を覚えるものです。
男性は基本的にはハンター。
教会の結婚式では、きまって新郎が新婦のヴェールを持ち上げます。
なぜヴェールをかぶるのが女性なのか?
ヴェールを脱がせるのが男性なのか?
それが「男女の本性」に沿っているからではないでしょうか。
逆に女性が自分から何もかも脱ぎ捨て、「どこからでも見て!」となったら、男性から「ベールを脱がす楽しみ」を奪ってしまいます。
ヴェールは女性が自ら脱いではいけない。男性の手で脱がせてこそ意味があるのです。
女性の美しさは、あからさまに見せないことで価値が増す。
そして本当に女性として尊ばれるのは、「隠す美しさ」を知っている女性です。
イスラム女性の服装にご興味ある方の参考になれば嬉しいです。
【参考図書】
20年間の取材によるイスラム女性たちのリアルな日常を紹介。モロッコ、チュニジア、エジプト、イラン、パキスタン、モルディブ‥‥。歌あり踊りありデートあり。「抑圧」などメディアによって作られたイメージと違う、生き生きした女性たちの実像を紹介します。
★「イスラム流幸せな生き方」
中学生でもわかるイスラム入門書。世界でなぜイスラム教徒が増え続けているか?がわかります。
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