男女隔離*イスラム社会とジェンダーを理解するポイント

イランの地下鉄の女性専用車両。イランの交通機関は男女別が普通。
イスラム社会の基本は「男女隔離」です。男の世界と女の世界は別。不特定多数の男女が交わることに、人々はとても神経を使っています。
それはなぜなのか?男女隔離の形態、隔離の理由について紹介します。
男女隔離のようす
まず、具体的に男女隔離がどのように行われているか見てみましょう。
①男女の空間を分ける
イスラム社会では学校、結婚式、乗り物などは男女別です。学校は小学校から高校まで男女別。大学は多くの場合、共学です。モスクでは男性の礼拝スペースが前、女性が後ろ(or2階)です。夫婦で友人宅を訪れても、夫は夫同士、妻は妻同士で話します。
②密室で男女が2人きりになることの禁止
密室で男女が2人きりになることはタブーです。人によっては、エレベーターで2人きりになることも避けるほど。たとえ仕事上の必要があっても、男女が密室に2人きりになることは許されません。
『イスラーム復興とジェンダー』には、エジプトの弁護士が仕事上、女性の顧客と2人きりにならなければならないことについて、ウラマー(イスラム法学者)に相談する場面があります。
(問い)「弁護士です。女性の依頼人の秘密を保持するため、2人きりで事務所で相談を受ける必要があります。これはイスラム教の禁止行為にあたりますか?』
(ウラマー)「もし扉を閉じなければ依頼人の秘密を保持できないから、その依頼は受けてはいけない。事務所でない会合の場所を指定するか、秘密を保持できる男性か女性を連れてきて同席してもらうようにせよ」
(『イスラーム復興とジェンダー』)*便宜上、文章を簡略化しています。
このように、仕事の必要より「異性が2人きりにならないこと」が優先される。それくらい密室で男女が2人きりになるのは「大タブー」です。
③家でも家族以外の男女の接触を避ける
家の中ではもちろん家族は男女一緒に過ごします。女性はスカーフで髪を隠したりはしません。しかしそこに見知らぬ男性が現れたら、女性は別室に隠れたり、スカーフで髪を覆したりします。
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私がエジプトの友人宅を訪れた時のこと。夫の友人(男性)が訪ねてきたのですが、その瞬間、彼女は逃げるように奥の部屋に姿を消したのでした。妻が夫や家族以外の男性と顔を合わせるのは、避けるべきだからです。
ここまで厳しく考えなくとも、家族以外の男性が訪ねてきたら、女性は髪は隠します。隠すべき相手は「結婚できる相手」。つまり「自分の家族(夫、父親、兄弟)以外の男性」です。
(結婚できない相手のことを「マフラム」と言います。男性の親族のことです)
④異性の誤解を招くような行動の禁止
女性は男性に誤解を招くような行動は慎むべしとされています。たとえばなよなよした言葉使い。中には(自分に気があるのか?)と勘違いする男性がいるからです。不必要に男性に笑顔を向けることもそうです。
日本では女性はニコニコしているのが良しとされますが、イスラム社会ではそうではありません。派手目の化粧もするのを禁じられている。これも男性を誘惑しないためです。
国による男女隔離の違い
男女隔離は国によっても様々です。徹底しているのはサウジアラビアやパキスタンです。
サウジアラビアでは1つの家に男性用の玄関、女性用の玄関があります。応接間も男用・女用に分かれているのが普通。家族で家を訪ねても、男性は男性用の応接間で主人とくつろぎ、女性は女性用の応接間で奥さんとおしゃべりします。
男性用の玄関は男性用の応接間に通じ、女性用の玄関は女性の応接間に通じている。だから玄関から応接間まで、いっさい異性と顔を合わせなくてすむのです。
パキスタンでは、レストランは男性用・家族用と分けられています。エジプトではレストランやカフェは通常、男女一緒ですが、店によっては分けられていることも。
その場合、家族スペースは2階です(つまりそれだけ人目につきにくい場所だということです)
なぜ男女隔離するのか?
姦通罪を避けるため
男女を隔離する目的は良からぬトラブルを避けるため。その最大のトラブルは姦通です。イスラムでは姦通罪は重罪です。
だから間違いを犯さないよう男女を隔離するわけです。
なぜ姦通罪が重罪?
家族を重視するためです。そして社会秩序の維持です。父親が誰かわからない子供が生まれたら困ります。
「人は弱い」・「男女は惹かれ合う」という人間観
ここまで男女隔離を厳しくするのは、イスラムには「人間は弱い」という価値観があるからです。そして「男女は惹かれ合うもの」という認識があります。特に男性は女の魅力に弱い。
だからトラブル防止のために、最初から分けてしまおうという発想をするのです。「人間は弱いもの」だから。
ここが日本との発想の違いです。日本ではどちらかというと「人は強い」と見ているところがある。たとえば電車を例にとると、一部の車両は女性車両が設けられていますが、ほとんどは男女一緒。各自の自制心に任せています。「大人の男なら自制できるだろう」と。
もちろんほとんどの男性は自制できますが、中にはできない人もいます。
女性保護
こうして男女を分けることは、女性保護にもつながります。男女を分けることで、痴漢やレイプなどの被害を減らせる。
ヒジャーブも同じ発想です。女性が髪や体を隠すことで男は女性の美しさに惑わされることもない。ご主人は奥さんだけを見ていることになり、浮気の可能性が減ります。
まとめ:男女隔離で心おだやかに
男女隔離は、日本人から見れば「不自由」です。
しかし男性は変な欲望に惑わされなくなり、かたや女性も性的犯罪の被害が減る。男女とも平穏な日々を送れるかもしれません。
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