「人は弱い」という根本思想と社会的弱者の救済<イスラム教の特色③>

イスラム教の社会的弱者の救済

チュニジア・ケロアンのグランドモスク。イスラム教における第4の聖地とされる。ここへの7回の巡はメッカの巡礼に相当するといわれている。

イスラム教はどんな特色があるのでしょう?

その教えを一言で言うと?

そんな疑問にわかりやすく答えます。

この記事を書いている著者は、イスラム入門書『イスラム流幸せな生き方など多数の本を出版しています。

イスラム教には大きな特徴が2つあると書きました。①平等生きるルールです。

さらにもう1つは「人は弱い」という思想です。

イスラムでは「人は弱いもの」と考える

『地上をあまりいい気になって闊歩するでない。

別にお前に大地を裂くほどの(力がある)わけでもなし、高い山々の頂上まで登れるわけでもあるまい。』

(「コーラン」17章37節)

人間の力には限界がある。だから「自然を支配できると思って、いい気になるなよ」ということです。

そんなちっぽけな人間が、偉大なる神に身を委ねて生きる。これがイスラム教の根本思想です。

神アッラーは全知全能であり、この世のすべてを決めるのは神です。(←アッラーとは何か?《1分で解説》

これには良い点があって、自分を必要以上に責めなくてすむということです。

なぜなら失敗は「神がそうされたから」です。

ムスリムは何かに失敗した時でも神のせいにする。試験に落ちた、リストラにあった‥‥日本人なら「努力が足りなかった」と自分を責めるけれど、ムスリムは「神様が望んだこと」でおわり。 

何かつらいことがあれば、神のせいにする。必要以上に自分を責めない。

イスラム圏は自殺が少ないと言われるが、きっとこれも関係しているだろう。

イスラム流幸せな生き方』

「努力しても無理なこともある。だから最後は神に任せよう」ということです。

弱者救済の思想

「人は弱いから助け合うべき」、「とりわけ弱い立場にある人間を助けよ」がイスラムの基本理念です。

弱い人とは、貧者、孤児、病人、老人、旅人、女性など社会的弱者です。

順を追って紹介します。

貧者 

貧者への施し(喜捨)は、コーランに定められた義務です。

「アッラーの道に専心し、(商売の目的で)大地を巡ることができない貧しい人たちのため(に施しなさい)

(2章73節)

「喜捨(きしゃ)の用途は、まず貧者に困窮者、それを徴収して廻る人、心を協調させた人、(途中略)、旅人、これだけに限る」

(9章60節)

喜捨には義務と任意があります。

義務の喜捨は「ザカート」といい、1年間の収入のうち決まった割合を払うものです。

それが諸機関を通じて貧者に分配されます。

もちろん家族が食べていくのがやっとという人に、この義務はありません。

任意の喜捨は「サダカ」といいます。

(参考:ザカートとサダカ イスラム教の喜捨と助け合い精神

病人

病人は信者の義務であるラマダン月の断食を免除されています。

病気や旅路にある人は、別の日に(できなかった)日数を(斎戒)することができます。

アッラーはあなた方に容易をのぞみ、困難を望みません。

(2章185節)

孤児

この場合の孤児は、片親がいない子どもも含みます

孤児救済の教えは、コーランのいたるところに書かれています。

「孤児を虐げてはならない」(93章9〜11節)

「孤児と付き合う時には自分の兄弟として付き合うように」(2章220節)

これは預言者ムハンマドが孤児だったことも関係していると言われています。

老人

高齢者を敬うことも、イスラムが大事にしている価値観の一つです。

両親を大事にせよと、コーランにしばしば書かれています。

「親孝行しなさし。もしかれら(両親)の一方もしくは両方が、あなたの元にいながら高齢に達しても、彼らに(辛抱をきらして)舌打ちをせず、言葉を荒立てず、敬意を払って話しなさい」

(17章23節)

「親にやさしく」とあっても「老人(一般に)にやさしくしろ」とはありません。

しかしイスラム教徒たちは「老人は他人の親、自分の親と「親」であることには変わりがない。だからやさしくするのだ」と言います。

実際、現地では老人が大事にされているケースを見ることが多いです。

地下鉄で老人が乗ってきたら、座っている若者はさっと席をゆずります。

イスラム圏には老人ホームが非常に少ないのですが、年老いた両親をホームにあずけるという発想がないからです。

(参考:イスラム教では老人はどのような扱いなのか?

旅人

イスラムでは旅人も弱き者と考えられています。

なぜならその土地のことを知らない「弱者」だからです。

「両親にはやさしくしてやれよ。

それから近い親戚や孤児や貧民にも、また縁つづきのものや血縁の遠い被保護者、(僅かな期間でも一緒に暮らした友)、道の子(旅人)、自分の右手の所有にかかるもの(奴隷たち)にも。」

(4章36節)

旅人はラマダン月の断食も免除されます。

イスラムで旅といえば、代表的なのは「メッカ巡礼」です。コーランが書かれた時代、旅は非常に困難でした。

車も飛行機もない。何ヶ月も、時には1年以上かけてメッカにたどりつく。

コーランにも「彼らは徒歩で、あるいはやせたラクダに乗ってやってくる」と書かれています。

ラクダやロバなどで旅ができたのは富裕層だけでした。

そのために旅人を保護する必要があったのでしょう。

女性

イスラムでは女性は「守るべき存在」とされています。

たとえば結婚後は夫が家計を担う義務があります。妻が収入が上でも、です。

「アッラーはもともと男と(女)の間には優劣をおおつけになったのだし、また(生活に必要な)金は男がだすのだから、この点で男のほうが女の上に立つべきもの」

(4章34節)

「男が上」とありますが、これは肉体的な優劣のことです。

男性の方が体力がある。だから「男が稼げ」というわけです

「男女差別だ」と言われそうですが、男女は肉体的に違います。

女性は生理がある、出産もする。どうしても働くのが辛い時もあります。

だから男性が生活費は責任持てというわけです。

女性が働くことを禁止しているわけではありません。

 

女性保護が社会のルールとして行き渡っているので、女性というだけで乗り物の中で席を譲ってもらえます。

駅や映画館の切符売り場で長い行列ができていていも、女性は堂々と前に割り込める。

(この点については、パキスタン男性と結婚しパキスタンに暮らして20年。【ベーグめぐみさん:インタビュー】を読んでみてください)

 

イスラムは女性差別というイメージがありますが、実際にはそうではないのです

(参考:【まとめ】イスラム教が女性差別でない10の理由

 

「人は弱い」と自覚すれば生きるのが楽になる

世の中には2通りの考え方があります。

①人は弱い(ダメ、劣っている)

②人は強い(良い、優れている)

現代社会は②に近いと思います。

「強いのが良いこと」。私たちは知らないうちにそう思わされています。

「弱音を吐くのは悪いことだ。」

「安易に他人に頼ってはいけない。」

それは正しいことでしょうか?

そのために生きずらさを感じる人が、大勢いるのではないでしょうか?

 

「人は弱いもの」と思えるようになると、気持ちが楽になります。

人はできない事があるのが当たり前。

他の人に助けてもらえば良い。

「人は強い」「強くなければいけない」という考えは、人に優しくありません。

いろいろな無理が生じます。

「強くて当たり前」という考えの社会では、そうでない人は引け目を感じます。

弱い自分はダメ人間ではないか?という劣等感。

他人に助けを求めることへの躊躇。

弱い人を下に見る傾向。

しかし人は完璧ではありません。

神ではありませんから、できないこと・劣った部分があるのは当たり前です

それを忘れて「人間は強いもの」「強くなければならない」と思いこんでいる人が多いのではないでしょうか?

「人は弱いもの」「できない事があって当たり前」と思えれば、自分を必要以上に責める事がないし、他人にもやさしくなれるのではないでしょうか。

「社会の役に立つ人間は立派な人間である。存在する理由がある。社会の役に立たない人間は存在するわけがない、という考えかた。あるいは強い人間、有名の人間、豊かな人間だけをもてはやす時代の風潮を見ていますと、私たちは最近の犯罪が社会の弱者に向けられることが多いのに、改めて気づきます。

大阪でもホームレスの老人を道頓堀の川に放り込んで死なせるという事件がありましたが社会の弱い部分に向けて暴力が振るわれる傾向が、少しずつ大きくなってきているということを深刻に受け止めざるを得ないわけです。

ぼくらは、人間は努力して世のため人のために尽くし、そして名を上げ、という明治以来の出世主義そのものをストレートではないにしろ受け止め、何かやるということを大切に思って育ってきた世代です。

しかし、今あらためて考えるとき、何もやらなくてもよい、失敗した人生であってもよい、それはそれで、人間として生まれてきて、そして人間として死んでいく。その事において、まず存在に価値があるのだ、と思うことがある。

(『大河の一滴』)

 

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