イスラムの夫婦の役割分担|「家計は夫の負担」は女性差別?

サウジアラビアの男性は日常的にトーブという白いワンピースを着用している。
生活に密着した宗教であるイスラムは、夫婦関係もコーランで明確に定めています。夫と妻の双方に権利と義務があり、役割分担があるということです。その「役割分担」を具体的にご紹介します。
①夫が生活費を負担
「夫が稼ぎ、妻は家庭を守る」がイスラムの教えです。役割を分担するのは「男女は平等だが違うもの。その違いに応じた役割がある」と考えるからです。
男女の差異をなくし、何もかも同じにしようという発想はイスラムにはありません。違いを認め、結婚では男女が補完し合って暮らすのが理想と考えます。
もちろん女性の労働を禁じてはいません。女性が収入があっても基本的に家にお金を入れる義務はなく、収入が夫より上でも同様です。
実際には経済事情から働いている妻は多く、家計に貢献しています。そういう家では妻が言いたいことを言えるので、かえって仲が良いそうです。
②リーダーシップは夫が
どんな集団もリーダーがいないと、まとまりがつかなくなります。これは夫婦も同じ。そこでイスラムでは家族を養う義務がある夫が家長であると定めています。
「男は女の擁護者(家長)である。それはアッラーが、一方を他よりも強くなされ、かれらが自分の財産から(扶養するため)、経費を出すためである。それで貞節な女は従順に、アッラーの守護の下に(夫の)不在中を守る。あなたがたが、不忠実、不行跡のある女たちには諭し、それでもだめならこれを臥所におきざりにし、それでも効き目がなければこれを打て。」(「コーラン」4:34)
体力がある方が家計を賄い、家長を担うことにしたためで、夫婦の優劣を示すわけでもありません。
このコーランの章句は色々と物議をかもしているので、くわしく説明します。
妻は夫の言いなり?
「貞節な女は従順に、アッラーの守護の下に(夫の)不在中を守る」とあるので、夫の言うことには何でも従わなければならないのか?と思われるかもしれません。
もちろんそんなことはなく「夫婦で話し合った上で、最終決定は夫にゆだねる」ということ。実際、家では奥さんの方が強く、子供の教育や結婚に関しては、妻が圧倒的に主導権を握っています。
ただ「夫の言うことにはなるべく従う」という妻は多いです。それが夫婦円満の秘訣だからです。重大なことでなければ、そしてそれがイスラムの教えに反するようなことでなければ、ハイハイと夫の言うことを聞いておいた方が、うまくことが運びます。日本でも同じではないでしょうか。
また最近の研究者は、「「従順」は神に対する態度であって、夫に対する態度ではない」と言っています。
大切なのは、何でも言うことを聞きたくなるような尊敬できる伴侶を選ぶ、ということでしょう。
「男たちは彼女らより一段上である」(2:228)もよく男尊女卑と批判されますが、これも男がお金を出すという意味で上なだけで、優劣を意味しているわけではありません。
夫は妻に暴力をふるってもいい?
「あなたがたが、不忠実、不行跡のある女たちには諭し、それでもだめならこれを臥所におきざりにし、それでも効き目がなければこれを打て。」
最後の「打て」について、「夫は妻に暴力を振るっていい?やっぱりイスラムは女性差別!」と思われるかもしれません。
これは「打て」「叩け」と訳されることもありますが、意味は「あくまで訓戒。身体的苦痛を味わせることではない」です(「聖クルアーン日亜対訳注解」)。
多くの学者が、「この指示は象徴的なもので、妻への暴力を認めるものではない」としています。
またいきなり「打て」と言っているわけではありません。まず諭し、それで聞かなければ寝室を別にし、それでもきかなければ‥とステップがあります。たいていの妻は諭された時点で、「ハイハイ」と言うことを聞くでしょう。「妻によくしてあげるように」が宗教の教えです。
「夫婦はできるだけ仲良く添い遂げるのが第一」(4:19)
「あなた方のうち最良の者は家族(妻)に最良の者です。」(アッティルミズィーのハディース)
最も良き人とは、自分の家族、自分の妻に対して良い人。妻に横柄な男性は天国にいけないのです。
まとめー2人が補い合って生きていく
イスラムが考える夫婦観・結婚観とは、「不完全な男女が、互いに補完しあう形でパートナーとなり、支え合って生きていく」というものです。
一方で「自立した人間同士がパートナーになるのが理想的」という考えもあるでしょう。
完璧な者同士の結婚は、いわば二人三脚みたいなものかもしれません。二人三脚はどうしても歩きにくい。「一人の方がいいや」ということになる。
イスラムの結婚は、片足同士の男女が一緒になって歩くようなもの。「こうやった方が歩きやすいね」とニコニコしながら、お互いに感謝しつつ、仲良く歩き続ける、それが理想と考えます。
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