イスラム教の結婚後の性行為のマナーは?
禁止されてる性行為はある?
そんな疑問にわかりやすくお答えします。
この記事を書いている著者は、結婚ではなく勉強して2009年イスラム教に入信。
イスラム入門書『イスラム流幸せな生き方』など多数の本を出版しています。
この記事ではイスラムにおける「性」についての考え方、位置づけから夫婦の性行為のマナー、女性の性欲を満たすことなどについて、誰でもわかるよう簡単に解説します。
目次
イスラム教における性
イスラム教の聖典「コーラン」には性や夫婦生活に関する内容が多く記載されています。
(*コーランについては、「コーランとは?日本人が知らない真実」をお読みください。)
たとえば「妻はあなたがたの耕地である。だから意のままに耕地に赴け」(2章233節)という一文があります。
これは「体位は自由」という意味です。
ほかにも「夫の求められたら妻は拒んではいけない」、「生理中の夫婦生活はどうするか」‥‥
こんなことも書かれているとは!最初はとてもショックを受けました。
やがて20年以上イスラム圏の人々と付き合い、イスラムについて多数本を読む中で、知るようになりました。
イスラムという宗教は性と俗を分けず、日常の生活についても事細かくルールを示していること。
性生活もその例外ではないこと。
ルールは主にコーランやハディース(預言者の言行録)に書かれていて、人々はそれらを大切に暮らしているということ。
ルールというと堅苦しく感じますが、いちいち自分で「これは良い・悪い」を判断しなくて良いので、人々は助かっているのです。
そしてこれは別の機会に詳しく書きますが、イスラムのルールはとても人にやさしい。
なぜなら神は、人が欲望を持つ存在であり、欲望に弱い存在だと認めているから。
人間の性欲も認め、夫婦の中で性欲を満たすことを勧めています。
決して禁欲的ではないのです。
それどころか、夫婦の性生活は「善行」とまでされているのです。
イスラム教徒は善行を積むことで天国に行ける。だから夫婦でセックスすればするほど、天国に近づけことになります。
人々は神様が決めてくれたルールの中で、思う存分に楽しんでいるのです。
性交は夫婦のみ
イスラムでは「セックスは夫婦の間だけ」と決めています。
婚前交渉や不倫は「姦通」として厳しく禁じられています。キスやデートも基本、結婚まで許されません。
家族に価値を置いているからです。
イスラム教では人間の欲を認め、それを満たすことを奨励していますが、際限なく認めた場合レイプや未婚の母など社会の混乱を起こします。
だから「夫婦間だけ」のルールを設けたのです。
結婚前は節制
結婚して夫婦の性生活を楽しむため、結婚前は自制せよとしています。
『男の信仰者たちに言っておやり。慎み深く目を下げて(女をじろじろと眺めない)、陰部は大事に守っておくよう(不倫な関係に使わぬよう)』
(『コーラン』24章30節)
性は大切なものだからこそ、夫婦という安定した関係の中でこそ楽しむべきとしたのです。
(「コーラン」については、「コーランとは?日本人が知らない真実」を参照)
夫婦の性交は善行

下着ショップのショーウィンドーを見入る夫婦。イスラムでは夫婦の交わりは善行とされるが、それを楽しむのに不可欠なのがセクシーな下着。そのため、こういった下着を眺めたり買ったりすることは宗教的にやましいものではないとされる。
イスラムでは夫婦の交わりは「善行」です。
「自己の配偶者との交わりもサダカ(善行)である。と申された。教友達は「アッラーのみ使いよ、誰かがただ性欲を満たすために行っても報酬はあるのですか」といった。
(途中略)もしそれが正当に行われたとすれば彼には当然報酬がある」と申された。
(『サヒーフ・ムスリム』)
夫婦間の性交は善行で、行うことで神からの「報酬」があるとのこと。
結婚イコール性生活
イスラム教徒にとって、結婚とはすなわち夫婦生活です。
「性欲を満たすために結婚せよ」とイスラムでは教えています。
『若者たちよ、汝らの中で妻を養える者たちは結婚するべきである。なぜなら、それによって女性に目をやることがなくなり、貞節を保てるからである』
(『ブハーリーのハディース』)
よって、イスラム教徒の結婚生活は「性生活」がその中心にあります。
そのため、どちらかが拒み続けると離婚の正当な理由になります。
性交は夫婦の義務
夫婦には相手と性交する権利と義務があります。
どちらかが相手の要求に長期に応じない場合、離婚の正当な理由になります。
また妻が夫との間で性的な喜びを十分に味わえない場合、離婚を要求する正当な理由になります。
またお互い性の歓びを享受する権利がありますから、夫は妻の満足にも気を配らなければなりません。
『妻とすぐ交合しようとするのではない。あなたと同様に、彼女も性的に興奮するまで待つのである。」
ある男が尋ねました:「アッラーの使徒よ、それにはどうするべきでしょうか?」
彼は答えました:「口づけしたり、体に触れたりして、性的に高揚させよ。そして彼女があなたと同様に準備の出来た状態になったら、交合に入るがよい』
(『アル・ムグニーのハディース』)
妻も夫から誘いを受けたら断るべきではないとされます。
『夫が妻を寝床に誘っても彼女がそれに応ぜず、彼が怒りの中にあるままその晩を過ごすとしたら、天使たちはその夜が明けるまで彼女を呪い続けるであろう』
(『サヒーフ・ムスリム』)
ただ体調の悪い時は、この限りではありません。
体位は自由
体位に何か決まりがあるのでしょうか?
コーランには、こう書かれています。
『妻はあなたがたの耕地である。だから意のままに耕地に赴け』(2章233節)
これは「性行為の方法や体位は自由」という意味です。
「妻の体は農地」という牧歌的な表現に、イスラムのセックス観が垣間見れます。
肛門性交
「体位は自由」ですが、「膣にたいしてのみ行われなければならない」とハディースに明示されています。
(『サヒーフ・ムスリム』)
セックスが禁止される期間
①ラマダン期間の日中
ラマダン期間中は、日中の飲食だけでなく性生活も禁止です。
『断食の夜、汝らが妻と交わることは許してやろうぞ。
彼女らは汝らの着物、汝らはまた彼女らの着物。
アッラーは汝らが無理しているのをご承知になって、思い返して、許し給うのじゃ。
だから、さあ今度は。彼女らと交わるがよい、そしてアッラーがお定めくださったままに、欲情を充たすがよい』
(2章183節)
ただし日中でも、キスや抱擁は許されています。
『サウム(断食中)、(妻たちと)キスしたり接触を持ったりしました。
そして彼はあなた方の中で、最も自制心のお強いかたでした』
(『アル・ブハーリーとムスリムのハディース』)
詳細:<イスラム教徒のラマダン>基本知識からラマダン中の性生活まで詳細解説
②妻の生理中・出産直後
妻の出産直後や生理中に交わることは禁止されています。(2章222説)
愛撫などはOKです。
「預言者の妻の一人マイムーナは、こう伝えている「アッラーのみ使いは月経中の妻たちに対しては、彼女らの腰巻の上から抱擁された」
(『サヒーフ・ムスリム』)
避妊の方法
コーランには避妊を禁じる章句はなく、「性交中断」は古くから認められてきました。
イスラム圏にはコンドームも薬局に売られています。
あまり人気はなく、ピルやリングが主な避妊手段です。
一夫多妻の夫婦生活
イスラムでは男性は4人まで妻をめとることが認められています。
ただし、複数の妻には全て平等に扱うのが条件です。夫婦生活も、です。
『女性のところには四日ごとに行くのが望ましい。それが公平である。
妻の数は四人だから、この程度の遅れは許される。
彼女を守るために、彼女の欲求に応じて増減することが望ましい』
4人の妻がいたら、毎日1人としなければなりません。
夫が若いうちなら可能かもしれませんが、中年になってくるとこれは厳しい。
(一夫多妻の詳細→「一夫多妻」。実は「女性にやさしい」側面もある)
最後に:夫婦の思いやり
このようにイスラムでは、性生活について信者に細やかに指示しています。
人を欲望を持つ存在だと認め、欲望を容認するからです。
だからといって野放図に性欲を満たすことは認めていません。
なぜなら傷つく人が出てくるからです。
だから一定のルールを設けました。
「夫婦の間ですること」
「相手にお互いに思いやりを持って接すること」。
性を大切なものと考えるからこそ、夫婦という「安定した関係の中で」楽しむことを勧めたのです。
イスラム社会では誰とでもセックスする自由はありません。
しかしだからこそ夫婦の愛と絆を深める力が働いているのです。
イスラムの性について興味がある方の参考になったら嬉しいです。
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★コーランの著者は神、アラビア語からの翻訳は不可。「日本人が知らない」事実をわかりやすく解説