イスラム教徒との結婚を考えています。
イスラム教における結婚とはどういうもの?
どんな決まりがある?
日本の結婚と違う?
そんな疑問に、わかりやすく解説します。
*結婚にあたってのイスラム教への「改宗」については、イスラム教徒との結婚には改宗が必要か?をお読みください。
この記事を書いている私は、これまで20年以上イスラム圏を取材し、「イスラム流幸せな生き方」など多数の本を出版しています。
★イスラム教では、結婚において女性の権利を明確に定めています。ここに書く「マフル」や「夫の扶養義務」です。
イスラム教徒の男性と結婚する日本人女性で、それらを知らずに結婚している方も多いようです。
ここでは、日本と違う「イスラム教の結婚ルール」についてわかりやすくご紹介します。
目次
結婚は推奨行為
イスラム教徒にとって結婚は推奨行為。事情が許せば結婚するのが良いとされます。
聖典コーランには「結婚すべき」と明記されています。
『おまえたちのうちの独身者、またおまえたちの男女奴隷のうち善良な者は結婚させよ』
(24章32節)
*コーランについては、「コーランとは?日本人が知らない真実」をお読みください。
結婚は「契約」
イスラムでは結婚は「契約」関係です。必ず契約書を作成します。
日本のように役所に届け出るだけでは結婚は成立しません。
(日本でイスラム教徒と結婚した場合も同様です)
契約書を作成する儀式は「結婚契約式」などと呼ばれ、通常2人の男性の証人が立ち会います。
結婚契約式は、インドネシアやパキスタンでは「二カー(Nikah)」、エジプトでは「カタブ・アルキターブ」と呼ばれます。
日本では、モスクでこれを行います。(→日本のモスク一覧)
イスラム教の結婚契約書
契約書には、結婚についての色々な条件を書き込みます。
男女の年齢、夫の名前と両親の名前、仕事、妻の名前(夫がすでに結婚している場合)などです。
興味深いのは「夫の妻の名前」を記す欄があることです。
イスラム教では一夫多妻が認められているからです。
(参考:イスラム教の一夫多妻とは?妻たちはどう思っている?)
以前は「妻の名前」の項目はありませんでした。そのため「独身と思っていたら実はよそに妻子がいて」といった話も珍しくありませんでした。
(中には母国に妻子がいて、内緒で日本で結婚しようとする男性もいます)
契約書には、イスラム圏ではこのような内容が書かれることが多いです。
「他の女性と結婚しないこと」
「結婚後も妻が仕事を続けることを認めること」
「妻が自分の親や親族を訪ねることを妨げないこと」
(ただ条件等は双方の話し合いで決まるため、必ず自分の希望が通るとは限りません)
また契約書には、「マフル(マハル=婚資)」の金額も記します。
マフル(マハル mahr)とは?
イスラム教の結婚においては、マフルを払うのが義務です。
「マフル」は新郎が新婦に支払う婚資のことで、結婚後は妻の個人財産になります。
(イランではマフルのことを「メフリエ」と言います)
日本の結納金と似ていますが、大きな違いがあります。
結納金は男性の家から女性の家に渡されるものですが、マフルは女性本人に渡されるもの。
親に支払われるものではありません。
イスラムでは夫婦別財産制なので、マフルは結婚後も妻の個人財産です。
生活のために妻がマフルを家に入れることもありますが、後で返す必要があります。
マフルの額
特に決まりはありません。基本的に妻の社会的身分と夫の経済力に見合ったものとされます。
女性の家柄が良かったり高学歴だったり美人だったりすれば、額は上がります。
つまりマフルがある意味、「女性の価値」を示す指標だったりもします。
マフルについて「女性がお金でもらわれている」イメージを抱く方もいますが、当の女性たちにしてみれば、「できるだけ高くもらいたい」、「不当に安くする人とは結婚したくない」が本音です。
中東・アラブ社会のマフル
中東アラブ社会では、マフルは①前払い・②後払いに分かれるのが普通です。
①前払い:結婚時に払う。
②後払い:夫との死別や夫からの離婚時に払う。
つまり「後払い」は、夫を失った後の妻の生活保障での意味があります。
また夫から安易に離婚させないような意味もあります。イスラム法では男性の離婚の権利が女性より大きくなっているからです。
そのため「後払い」の方が「前」よりずっと高く設定されるのが普通です。
「結婚する前から離婚のことを決めておくなんて縁起でもない」。
日本人ならそう思いがちです。
しかし男女の愛ほどアテにならないのも事実。
実際、日本では離婚後に養育費や慰謝料を受け取れない女性も少なくありません。
*イスラム教徒と結婚する日本人で、こういうことを知らずに結婚してしまう方も多いようです。
ただ仮にマフルの額を決めておいても、相手に支払い能力がなければ、払わせるのは難しいのも現実です。
一番大切なのは信頼できる相手を選ぶことです。
アジア地域のマフル
パキスタンやインドなどで「ダウリー(花嫁が用意する持参材)」がある地域の場合、ダウリーの方がマフルより高額になる場合も少なくありません。
またパキスタンなどではマフルは認識されているが、払われていないケースも多いようです。
結婚指輪はある?
イスラム圏の国々では、結婚にあたって新郎から新婦に貴金属の贈り物をするのが通例。
そのメインは結婚指輪です。
イスラム教における夫婦関係とは?権利と義務
イスラムにおける結婚では「夫が庇護者、妻は庇護される者」です。
夫は妻子を扶養する義務があり、妻は夫に服従する義務があります。
夫婦の権利・義務をまとめると、次のようになります。
・夫の義務=①生活費を負担すること。 ②性行為を行うこと。
これが満たされなければ、妻から離婚を請求できる。・妻の義務=①家庭内の運営に責任を持つこと。 ②性行為を行うこと。
これが満たされなければ、夫から離婚を請求できる。
このように、性交が夫婦の権利であり義務です。
妻が夫との間で性的な喜びを十分に味わえない場合、離婚を要求する正当な理由になります。
(参考:イスラムのセックスや性生活のルール。体位に決まりはある?禁止事項は?)
夫が生活費を負担すること
結婚したら夫が家計を担う義務があります。
「アッラーはもともと男と(女)の間には優劣をおつけになったのだし、また(生活に必要な)金は男がだすのだから、この点で男のほうが女の上に立つべきもの」
(第4章34節)
「男のほうが上」とあるのは、これは肉体的な優劣を指しています。
男性の方が体力があるのだから、「男が稼げ」と神が命令しているのです。
「男性は女性の一段上にある。」とあるのは、あくまでも男性に負わされた責任の重さを表す章句なのである。
イスラームが説くのは性差別ではなく、性区別。すなわち役割分担の大切さにほかならない。
(「イスラームと女性」)
男女を区別すること自体を差別を思う人もいるかもしれませんが、イスラムでは性差は否めない事実です。
体格や体力の差から女性は危険に晒されるリスクが高いので、その性差を認めた上で男女平等を目指すのがイスラムの考え方です。
だから生物学的な性差において、女性を守る義務があるという思想が出てくるのです。
以前イラン人と結婚した日本女性で、「夫が家にお金を入れてくれない」と相談を受けたことがあります。
日本では夫が生活費を入れるのは慣習ですが、イスラム教では宗教で定められた明確な義務です。
もちろんイスラムでは女性が働くことを禁止しておらず、妻の方が収入が多くても、家計を負担するのは夫。
とはいっても現実には、生活のために妻が働くケースも多いです。
離婚
イスラム教ではキリスト教と違い、離婚は禁じられておらず、それは「契約の解消」であり、バツイチなど暗いイメージはありません。
離婚した女性もわりとすぐに再婚します。
ただ避けるべきであることは変わりなく、コーランでは積極的に和解をすすめています。
「できるだけ仲良く添いとげることが第一。
汝らの方では嫌いな相手でも、もしかしたらアッラーが立派にしておやりになった者かも知れないから」
(4章19節)
「二人の間にひびが入りそうな心配のある時は、男の一族から調停人を一人、それから女の一族からも調停人を喚んで来るがよい、もし両人に仲直りしたいという気持ちがあるならば。
アッラーが二人の仲をうまく合わせて下さるであろうぞ」
(4章35節)
夫の離婚権は強い
離婚の権利は夫の方が強く、夫が「お前を離婚する」と3回宣言すれば離婚が成立すします。
2回目までは復縁できますが、3回宣言してしまうと、妻が他の男性と結婚して離婚しない限り、復縁できません。
離婚の際は夫は妻に後払いのマフルを支払う義務があります。
実際には夫婦喧嘩などで怒りにまかせて「離婚だ!」と言ってしまい、冷静になってから後悔する男性はたくさんいるようです。
また離婚の場合、妻が3回の月経を終了するまで扶養や住居を提供する義務があり、彼女を悪く言ったりすることも禁じられています。
妻からの離婚が認められる場合
妻からは、次のような事情がある時にかぎり、離婚が請求できます。
・夫が妊娠させる能力がない。
・性的不能。
・妻を扶養するのを拒否した、妻を見捨てた、失踪した。
・夫が長期間投獄されている。
・妻を虐待したり冷遇した。
・夫が不治の病や精神病にかかった。
・結婚契約を結ぶ際に、重要な情報を隠していたことが発覚したりした場合。
以上のような理由がなく、それでも妻が離婚したい場合、後払いのマフルやその他の権利を放棄することで、離婚することができます。
このように男性の離婚の権利が強く、複数の妻を持つことが認められているので、イスラム教は男尊女卑と思われがちですが、そうとも言えません。
経済的には女性が非常に優遇されているからです。
①前払いのマフルは妻個人の財産。そこから生活費を出す必要はない。
②夫だけに扶養の義務がある。妻が夫より収入が多くても、親から大金を相続していても、夫が経済的な苦境にあっても、妻には経済的な責任は発生しない。
*ただ経済的事情から妻も家にお金を入れている家庭もあり、そういう家では妻が言いたいことを言えるので、かえって仲が良いそうです。
離婚後の待婚期間あり
女性は離婚後、すぐに別の男性と結婚できるわけではなく、原則3回の月経を見るまで独身でいなければなりません。
前の夫の子を妊娠している可能性があるからです。(2章228節)
ただ床入り前に離婚した場合は、この限りではありません。
子ども(養子や離婚の場合の親権)
イスラムでは血縁関係を重視しているため、原則として養子は認められません。
このことは名前にも反映され、「父の名」の部分には育ての親ではなく、実の父親の名前が記されます。
離婚したら、7歳未満の子供は母親に託されます。
それ以降の年齢は、男子はどちらの親の下に行くか選択できますが、女の子は必ず母親と暮らすことになっています。
異教徒同士の結婚
イスラム教では異教徒同士の結婚は基本的に認められていないため、ほとんどのケースで改宗の必要があります。
(詳しくは→イスラム教徒との国際結婚には改宗は必要?)をご覧ください。
さいご:ムスリムとの結婚で大切なこと
イスラム教としての結婚ルールはありますが、あくまで大切なのは相手との信頼関係です。
これは日本人であっても外国人であっても同じ。
あくまでルールはルールとしておさえつつ、大事なことは信頼のおける相手を選ぶことだということを忘れずに。
イスラム教徒といえども、相手は生身の人間です。
そしてイスラム教徒と結婚するなら、最低限イスラム教について知っておいた方が良いと思います。
イスラム教徒との結婚を相談できる場所
イスラム教徒との結婚や改宗については、こちらの機関に相談できます。
イスラム教徒の方との結婚を考えている方のお役に立てたら幸いです。
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★コーランの章句はこちらから引用しました。