2020-05-01

婚前交渉を禁止するイスラムは禁欲的な宗教?

エジプト人男性

公園で踊るエジプト人男性たち。イスラム社会の人々は踊るのが大好き。結婚式は歌と踊りがメインで、この時は男性だけでなく女性も入れ替わり立ち替わり得意なダンスを披露する

イスラムでは婚外の男女関係は禁止。女性は外では肌の露出をひかえなければならない。ラマダン月には一ヶ月の間、日中は飲食禁止‥‥「禁欲的な宗教」のイメージが湧いてきても不思議ではありません。

一方でイスラム人口は増え続けています。各種の予測によれば2050年には世界の3人に1人はイスラム教徒になるといいます。

人に苦行や禁欲を強いるばかりの宗教だとしたら、これだけ信者が増えるでしょうか?禁欲ばかりしていて、子どもがどんどん増える?

実はイスラム禁欲を否定しています。人々の欲望を大いに認める、人にやさしい宗教なのです。

イスラムは欲望を肯定

イスラムでは人間の食欲、金銭欲、性欲を肯定しています。欲望を含む人間の身体は、神が創造された「恵み」ととらえるからです。

コーランでは『アッラーがせっかく信徒たちのために作ってくださった装身具を禁止したり、おいしい食べ物を禁止したりしたのは誰が』〔7:32〕 と、禁欲を戒める章句があります。

ハディースには、信者の禁欲を預言者ムハンマドが批判する話も伝わっています。

『信者の男たちがある時、「私は結婚しない」、「私は肉を食べない」、「寝台で寝ない」などと信仰熱心なあまり禁欲主義的傾向をみせたとき、預言者(彼に平安あれ)は、「そのようなことを言う者がいるとは一体どういうわけか。私は礼拝をすれば眠りもする。断食をすれば食事もする。もちろん女性とも結婚する。

金銭欲の肯定

イスラムでは金銭欲も肯定し、稼ぐことは積極的に奨励されています。

『礼拝が終了したら、方々に散って、今度は大いにアッラーの恵みを求める(商売に打ち込むこと)がよい。<途中略>そうすれば必ず商売繁昌しよう』(62:10)

商売での稼ぎを「恵み」としているとおり、金を悪いとする考えはありません。ハディースには、お祈りばかりして家計を考えないものを厳しく非難する言葉もあります。

ただし稼いで余った分は貧しい人に施すのが義務。一方で施しすぎも良くないとされます。貧者救済はイスラムの大切な教えであり、またイスラムは中庸を重んじる宗教だからです。

ハディースでは『お前たち、贅沢三味でも、かといってけちけちでもなく、食べ、飲み、装い、そして喜捨を出せ。』と中庸の生活を勧めています。

性欲の肯定

チュニジアの結婚式

夫婦の交わりも積極的に奨励されており、夫婦の性生活は「善行」とされています。

『夫婦が情愛を交わせば、報償としてアッラーのお恵みが与えられる。禁じられた性にうつつを抜かしていれば罰せられるように』(ムスリムのハディース

そのためイスラム社会では性に対して「恥ずかしい」、「汚らわしい」などの考えはありません。結婚式の初夜には、夫婦のベッドを花などで飾りたてます。これは中東だけでなく、インドネシアやマレーシアなどアジア圏でも同様です。

町にはマダムのためのセクシーな下着が堂々と裏れ、夫婦仲良く見いる姿も見られます。(→:イスラム女性が黒いアバヤの中に着ているものは?

ではなぜ婚外の関係を禁じるのか?
一番は女性の望まない妊娠を防ぐためです。またイスラムでは家族を重視するため。だからきちんと結ばれた「夫婦間で」で楽しむべきと考えるからです。一夜限りの関係などでなく。

修道院制度を否定

そこでイスラムでは結婚をすすめます。「結婚した者は宗教義務の半分を果たしたことになる」というハディースがあるとおり、結婚は信仰生活の重要な一部。

禁欲的独身主義には否定的です。俗世を捨てて人里離れて長期に行う修行・修道院制度も認めていません。

「禁欲の修道院制は、かれらが自分で作ったもので、われがかれらにそれを指示してはいない。』(57:27)

「禁欲を尊んだ初期キリスト教の父祖たちとちがって、(預言者)ムハンマドはセックスが人生最大の喜びのひとつで、結婚は男女を不審心な交から守ってくれると考えた。そこで、彼は信者に結婚をすすめた。彼はこう宣言した。そこで、イスラム社会では、禁欲はないことになった。」(『愛はなぜ終わるのか』)

ヒジャブ・スカーフは抑圧?

女性が肌や髪を隠すことについては、どうでしょう?

中にはニカブやブルカで顔まで隠している女性さえいる。外から見れば女性の自由を制限しているように見えます。

しかし女性たちは家の中では、タンクトップや短パンなど私たちと同じか、それ以上に派手な服装をしています。「おしゃれをする場所がちがう」だけなのです。女性の美しさは夫など「大切な人」だけに見せるものだからです

(*「女性は宝石」。イスラム女性がヒジャーブで髪や肌を隠す本当の理由

自分を愛し、大切にしてくれる人だけのために着飾る。見ず知らずの男性の目を楽しませるものではありません。

肌の露出を控えることで、痴漢にあう確率も減ります。社会生活では、女性は外見で判断されずに実力で勝負することができる。男性にジロジロ見られる煩わしさが減り、のびのび暮らすことができます。

外では黒づくめ。家の中では愛する人のために思う存分に着飾る。おしゃれの対象とシーンが違うだけなのです。

ラマダンは禁欲的?

ラマダン イスラム教のラマダン

イランのラマダン風景。断食明けには家族や親戚と揃って食事する。

ラマダン月の1ヶ月間、日の出ている間に飲食などの欲望を断つ教えは、たしかに禁欲的と言えなくもありません。

しかし断食が明けると、普段以上のご馳走が待っています。日本ではラマダンというと苦行といったイメージがありますが、現地では反対で、むしろ「お祭り」といった方が近い。ラマダン月に太る人も多いのです。

そもそも一定期間、食欲をがまんするからこそ、食事が一段と美味しくなるのです。どんなにご馳走でも、毎日食べたいだけ食べていたら、「おいしさ」は半減してしまいます。

何事も楽しむにはオン・オフが必要です。ウィークデーに仕事を頑張るからこそ、週末のレジャーが楽しくなる。
もし毎日が日曜日だったら、どうでしょう? レジャーも飽き飽きしてしまうのではないでしょうか。それと同じです。

弱い人間だからルールの中で楽しむ。

上記のとおり、イスラムでは人間の欲望を認め、食欲、物欲、性欲など快楽の追求を許している。ただしそれは一定のルールの中で、です。なぜなら人間は弱いものだから。何の縛りもなければ、欲望のおもむくままに暴走してしまう人もいる。

酔って線路に飛び込む人も出るかもしれない、女性が望まない妊娠をするかもしれない、貧しい人への施しがなければ、貧富の差がどんどん広がる‥そうなると社会秩序が乱れます。そこで一定のルールを設けるのです。

快楽は一定の節制があってこそ増すものです。

ラマダン=一定期間食を断つことで、食事の美味しさが一段と増す。

・男女の交わり=「やりたいけど、できない」という期間があるからこそ、夫婦になった時の喜びがます。

節制は人を美しくもします。肌の露出をひかえめにすることで、女性らしい慎みや美しさが生まれます。

一定のルールのもとにある快楽の追求こそ、本当の意味で人生を深く味うスパイスと言えるかもしれません。

【イスラムの基本】*記事一覧

イスラム流幸せな生き方
中学生でもわかるイスラム入門書。なぜ世界中でイスラム教徒が増え続けているか?がわかります。

イスラーム ヴェールの向こう

20年間にわたり取材したイスラム女性たちのリアルな日常を紹介。モロッコ、チュニジア、エジプト、イラン、パキスタン、モルディブ‥‥。歌あり踊りありデートあり。「抑圧」などメディアによって作られたイメージと違う、生き生きした女性たちの実像を紹介します。

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

error: Content is protected !!