2018-10-06

「女性は宝石」*イスラムの女性が髪や肌を隠す本当の理由

イスラム女性 イスラム教の女性 オマーン女性 ブルカ 民族衣装

「イスラム女性たちは布で肌や頭を隠していますが、なぜですか?」「なぜスカーフを着用しなければならないのですか?」「ヒジャーブは抑圧の象徴ではないでしょうか?」‥そんな疑問にお答えします。

女性が髪や肌を隠す宗教的根拠

イスラム女性が髪や肌を隠すのは、コーランにそう定められているからです。

①「顔と手以外の部位を隠すこと
②「体の線を見せないこと」。

①「顔と手以外の部位を隠す」

コーランでは「美しい部分を隠せ」と女性に命じています。

 「それから女の信仰者にも言っておやり、慎みぶかく目を下げて、陰部は大事に守っておき、外部に出ている部分はしかたがないが、そのほかの美しいところは人に見せぬよう。胸には覆いをかぶせるよう」(24章31節)

「美しい部分とは具体的にどこか?」コーランには明記されていません。

学者たちの意見はほぼ「顔と手以外の部分」で一致しており、これが髪を隠す根拠です。

(*イスラム教女性の服装ルール完全版【Q&A】

②体の線を見せない

またコーランでは女性に「長衣を着る」よう命じています。

「これ、預言者、お前の妻たちにも、娘たちにも、また一般信徒の女たちにも、(人前に出る時は)必ず長衣で(頭から足まで)すっぽり体を包みこんで行くよう申しつけよ。」(33:59)

長衣で身を包み、ボディラインを見せないことが求められています。

以上のように①「顔と手以外の部位を隠す」②「体の線を見せない」がイスラム女性の服装ルールです。逆に言えば、このルールさえ守っていれば、あとはどんな服装をするのも自由です。

第一の理由は信仰心

ですから髪や肌を隠す第一の理由は宗教心です。イスラム女性に「なぜ髪を隠すのか?」と聞くと、多くの女性は「イスラム教徒だから」「それがムスリマ(イスラム女性)としての正しい行いだから」と答えます。

私が現地で髪を隠していると「あなたはイスラム教徒なの?」と聞かれます。「イスラム女性=髪を隠す」と認識されているのです。

「女性は宝石」

では女性は宗教上の義務として従っているだけでしょうか?

多くの女性は髪や肌を隠すことに積極的な意味を見出しています。ある女性はこう言います。

「紙で包んであるアメとそうでないアメがあったら、人はどっちを食べる? 包んである方でしょう。むき出しのアメはハエがたかっているかもしれないし、汚い手で触ったかもしれない。スカーフもそれと同じ。女性の髪が美しい・高貴なものだから包む。包むからますます価値が上がり、尊ばれることになるのよ

大切な人へのプレゼントは、きれいな包装紙で包みます。女性もそれと同じ。宝石のように高貴で美しい存在だからこそ、美しい部分は隠すのです。

自分の美しさは大事な人にこそ見せるもので、不特定多数の男性を楽しませるものではありません、

この根底には「女性は美しいもの」「大切にされるべき存在」という自己肯定感、「女性としての自分を大切にする」という気持ちがあります。

「きちんとした女性」と見てもらえる

また髪や肌を隠すことで、「品行正しい女性」「モラルがある人」と見てもらえるという理由もあります。いわばサラリーマンの背広とネクタイのようなもの。公共の場での扱われ方が違ってくるといいます。

結婚しやすくなる

宗教の定める服装をすることで敬虔さをアピールでき、ひいては結婚相手を見つけやすくなるともいいます。イスラム圏の男性は結婚相手には敬虔な女性を望むものだからです。

私のエジプトの友人は、10代の頃はヒップラインが見えるGパンを好んではいていましたが、結婚を意識し始めた頃から黒いアバヤ(ガウン)を着るようになりました。

実際、男性に聞いても「彼女はちゃんと礼拝すると聞いたから結婚した」と話す人もいます。「信心深い女性なら、間違いを起こさないから(不倫など)」といった意見もあります。

性的ないやがらせが減る

自分の美しい部分を隠すことで、男性のわずらわしい視線をカットでき、性的嫌がらせを受けにくくなります。女性たちはこう言います。

「ハチミツにふたしないで晒しておいたら、ハエがよってくるでしょう?それは当たり前よ。いちいち苛立つより、最初から隠してしまった方が賢いわ」

心や才能で男性を魅了する

自分の美しさを隠すことで、美ではなく「心や才能で」男性を魅了することができると考える女性もいます。

アッラーと私とスカーフと」という日本人女性が監督したドキュメンタリー映画があります。

主人公はカナダに暮らす4人のイスラム女性達。彼女達は「スカーフをするか否か」で悩み、家族や周囲の人との関わりの中で、それぞれの道を見つけていきます。

「スカーフをする」と決心した主人公の1人は、そのメリットについてこう語ります。「美ではなく「心や才能で」男性を魅了することができる」。

そして心で男性をひきつけた方が良いと語ります。「容姿は年をとるにつれて衰えるけれど、心や才能はそうではないから」。

「見られる者」から「見る者」へ

別の主人公は、こう語ります。「スカーフをすることで、誰が私を見るかを決めることができる」。

美しい部分をさらした女性は、否が応でも「見られる側の存在」です。隠すことで「見せたい相手にだけ」美しさを見せることができる

見せる相手・見せたくない相手を自分で選ぶことができる。女性が優位に立つことになります。

社会進出しやすくなる

ヒジャーブをすることで社会進出が容易になるという面もあります。イスラム社会では、男女の不必要な接触を禁じるため、男女隔離が原則です。ヒジャーブが「見えないカーテン」の役割を果たし、社会進出が容易になるのです。



「ベールは「携帯用のカーテン」であり、これを身に着けることで、女性の社会進出を促進される。」(「イスラームとモダニティ」)

外見で差別されない自由を得る

肌や髪を隠すことで、美醜や年齢で差別されない自由と開放感も得ることができます。

「足が太い」「ウェストのくびれがない」などの身体的コンプレックスもカバーできます。(だから油断して太ってしまうという女性はいるようですが)

サウジアラビア女性が身につけるアバヤとニカブが最たるもの。これなら年齢までも隠してくれます。

「かぶらされている」わけではない

以上のように現実には、自らの意思で率先してヒジャーブを被っている女性が大多数です。

もちろん被りたくない女性も存在します(特に国の法律でヒジャーブ着用を義務付けられている女性に、その傾向が強いようです)。が、私の体験では、いやいやヒジャブやチャドルを身につけている女性には会ったことがありません。

日本でアナウンサー等で活躍する師岡カリーマ・エルサムニーさんは、著書でこう述べています。

「サウジアラビアやイランと違って、女性が肌を隠すことが義務付けられていないエジプトの場合、ベールをかぶっている女性はほとんど全員が、かぶりたいからかぶっているのである

イスラームの教えだから守りたい」という気持ちが大前提だが、実は「邪な欲望を抱きかねない男たちなんかに、この髪や足を見せてたまるか」という、少しナルシスチックな面もないとはいえない。

父親や夫に強制されてベールをかぶる女性が皆無とはいえないが、いても例外的なケースである。私が知る何十人という女性の中で、自分の意志に反してベールをかぶっている女性は一人もいない。

(「エジプト悠久のおもしろ国」)

私たちは自分の立ち位置から他の人を見がちです。女性が髪を隠す習慣がない日本人から見れば、隠すことは確かに不自由に見える。しかし当の本人がどう思っているかは、また別。髪を隠すことに居心地の良さを感じている女性は多いのです。

 

【参考図書】

【写真集】「イスラーム ヴェールの向こう」

20年間の取材によるイスラム女性たちのリアルな日常を紹介。モロッコ、チュニジア、エジプト、イラン、パキスタン、モルディブ‥‥。歌あり踊りありデートあり。「抑圧」などメディアによって作られたイメージと違う、生き生きした女性たちの実像を紹介します。

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