イスラムで一夫多妻を認めているのはなぜ?
男尊女卑じゃないの?
妻たちはどう思っているの?
一夫多妻のメリット・デメリットは?
そんな疑問にお答えします。
この記事を書いている著者は、イスラム入門書『イスラム流幸せな生き方』など多数の本を出版しています。
これまでイスラム社会の様々な場所で、一夫多妻の例を見てきました。
ここではイスラム教が一夫多妻を認めた理由、妻たちはどう思っているのか?一夫多妻のメリット・デメリットなどをわかりやすく紹介します。
目次
イスラムの一夫多妻の基本
一夫多妻を認めるコーランの章句
一夫多妻の根拠はこの章句です。
「汝ら自分だけでは孤児に公正にしてやれそうもないと思ったら、誰か気に入った女をめとるがよい、二人なり、三人なり、四人なり。
だが、もし妻が多くては公平にできないようならば、一人だけにしておくか、さもなくばお前たちの右手が所有している女奴隷だけで我慢しておけ。」
(4章2~7節)
(参考:コーランとは?日本人が知らない真実)
一夫多妻を認めた理由
では、なぜコーランで一夫多妻を認めたのでしょう?
預言者ムハンマド(イスラムの創始者)の時代、イスラムを広めていく過程で各地で戦乱が続き、夫を亡くした妻が続出。そこで妻子が生活に困らないよう、男性に複数の妻と結婚することを認めた。
これが一般的な解釈です。
この説によれば、そもそもは戦争によって夫を失った妻と孤児の救済。積極的に多妻を勧めているわけではありません。
「妻たちを公平に」が条件
一夫多妻にあたっては、妻たちを平等に扱うのが条件です。
しかし人間。実際には不可能に近いですね。
だから「複数の妻に平等など無理だから、やめておけという意味だ」と解釈する研究者もいます。
実際、「1人でも大変なのに。2人も3人もなんて‥。」という男性は多く、一夫多妻は現実には多くありません。エジプトでは2.7%くらいという統計もあります。
一夫多妻は男尊女卑?
イスラムでは家計の負担は男性の義務です。妻が4人いたら4家族養うことになります。
つまり奥さんを複数持てるのは、かなりのお金持ちだけです。
実際には一夫多妻はそれほど多くはありません。
チュニジアとトルコは法律で一夫多妻を禁止しています。
他の国でも結婚契約書に「2人目の妻をめとる場合、妻の許可が必要」などの文言を入れることもできます。
無断で他の女性と結婚されたら離婚する選択肢も認められています。
一夫多妻の妻の気持ちは?
私はエジプトの遊牧民たちを長年取材してきましたが、その中には複数の妻を持つ男性もけっこういました。(『女ノマド、一人砂漠に生きる』)
「いくら宗教で認められているといっても、妻たちは一夫多妻に反対だろう」
私はそう思っていました。
もちろん妻の中には他の妻に嫉妬したり夫にあいそをつかしている人もいます。
しかし「一夫多妻」そのものを批判する人はいませんでした。
コーランで認められているからです。
イスラム教徒にとって、コーランは神の言葉、「絶対」です。
(参考:コーランとは? 日本人が知らない真実)
ただし妻たちを公平に扱わない男性について、しきりに批判していました。
コーランには「妻たちを公平に扱え」と書かれています。
しかし私の経験では、公平に扱っている男性は一人もいませんでした。
そもそも妻以外の女性が好きになって結婚するのですから、新しい妻に心情的に入り浸るのは当たり前です。
パキスタンでは、最初の妻に子供ができなかったため、もう1人の女性と結婚した男性と会いました。
2人の妻は同じ家で暮らし、表面的には仲が良さそうでした。そうするしか生きていけない妻の事情もあるでしょう。
一夫多妻のメリット・デメリット
独身よりは一夫多妻
遊牧民の中に、妻がいる男性と結婚した若い女性がいました。
その彼女にぶしつけに聞いたことがあります。
「どうして妻がいる男性と結婚したの?」
すると彼女はこう言い放ちました。
「アンタみたいに、いい年して一人より、結婚した方が、セックスもできて子どもも持てるし、よっぽどいいわよ!」
もちろん狭いコミュニティの中で、なかなか新婚の男性を探すのが難しいという事情もあるでしょう。(遊牧民は遊牧民同士で結婚するのが慣習です)
女性が一人で生きていくのが難しい社会です。
適齢期を過ぎて独身でいられるほど気楽な社会でもありません。「しかたなく」という事情もあるでしょう。
しかしその言葉は私にはかなりインパクトがありました。
その時まで「一人も気楽でいいかな」とも思っていました。結婚を考え始めたのは実はこの言葉がきっかけです。
女性の「救い」になることも
夫が亡くなり、生活に困っている女性などには、一夫多妻が救いになる場合もあります。
21世紀の現代、福祉の行き届いた日本でさえ、厚生省の調べによれば、母子家庭の8割の女性が「生活が苦しい」と訴えているそうです。
まして7世紀のアラビア半島で、子どもをかかえた未亡人が一人で生きていくのがどんなに大変か。
2人妻がいれば、妻同士で家事の分担もできます。
私の知人のエジプト男性には2人の妻がいました。一方は40代、他方は26才。
家事はすべて若い妻が担当し、40代の妻の方はテレビを見たりして、一日のんびり暮らしています。
一方で、若い妻に子どもが生まれると、子育て経験豊富な40代の妻が子どものあやし方などを教える。
妻の間でほどよく「ギブアンドテイク」が働いているのです。
もちろん、最初からこのような良好な関係が築けていたとは思いません。
40代の妻曰く、「夫が他の女性と結婚するって聞いた時は、当然嫉妬したわ。でも私にはどうすることもできない。だってコーランで認められた男の権利だもの。でも今はこの暮らしも悪くないと思っているわ」と清々しい表情で語ったものです。
また知人のある女性は、仕事が楽しくて離婚したものの、「誰かの2番目の奥さんになりたい」と言っていました。
その方が扶養してもらえる上に、家事も他の妻と分担でき、性交にも毎回応じなくてもすむからです。
実際ムスリムと結婚している私の友人女性も、「子育てが大変だから、夫にもう一人奥さんもらってほしい」と本気で言っていました。
このように一夫多妻は妻同士が家事を分担できるなど、メリットがあることも事実です。
不倫よりも一夫多妻が良い
日本では、夫が妻以外の女性を好きになった場合、不倫するしかありません。
あるいは妻を捨てて新しい女性と結婚するか。
いずれにせよ、1人を捨てることになります。
また女性の方も、不倫では望まない関係をズルズルと続け、婚期を逃してしまう‥そんなケースも少なくありません。
子供が生まれれば「非嫡出子」になります。
その点、一夫多妻制なら結婚できる女性が増えます。
妻として認めてもらい、生活費も出してもらい、子ども産める。女性にとっては、(不倫より)こちらの方が良いとも言えます。
一夫多妻が少子化対策に
いい男はすでに結婚しているもの。そんな経済力、包容力にあふれた男性を女性たちで分かち合う。
そうすることで、結婚できて子供が産める女性が増える可能性もあります。
日本でも一夫多妻制にすれば、少子化の緩和につながるかもしれません。
夫婦の「マンネリ」防止に
一夫多妻によって、夫婦(特に妻側)にある種の緊張感が生まれます。
「夫が他の女性とも結婚するかもしれない」という危機感があるからです。
そのために夫の気をそらさないよう、妻はいつも身ぎれいにし、セクシー下着などを買ってきたりして頑張る。
結婚すると女性はついつい安心してしまって、外見にかまわなくなりがちです。
実際、一夫多妻によって「夫婦のマンネリ化が防げて夫婦仲が良くなる」という考えは現地にはあります。
やや男性にとって都合の良い考えと言えなくもありませんが。
一夫多妻のデメリット
魅力的で財力のある男性が2人、3人もの女性と結婚すれば、当然結婚できない男性がたくさん出てきます。
一夫多妻と聞くと、女性蔑視のように思われるかもしれませんが、実際には男性には酷な制度です。
結婚できない男性が続出すると困る。そのために宗教で一夫多妻が認められながらも、実際にはそれほど多くないのです。
日本も最近まで一夫多妻だった
実はもつい100年前は一夫多妻制でした。それまでは事実上一夫多妻だったのです。
「明治15年までは「妾」二号さんが戸籍に登録できる正式な第二夫人だった。
明治15年以降、戸籍には二号の新規登録はできなくなったが、戸籍簿から完全に二号さんが消えたのは明治31年(1989年)の新戸籍法移行のこと。
それも戸籍簿から二号の名が消えただけで、事実上「妾」は存在し続けた。
今も婚姻届を出していなくても、事実上の夫婦関係にあったことが証明されれば相続権を認めている。
日本に一夫一婦制が入ったのは明治以降の西洋化、つまり西洋キリスト教の影響だったといわれている。
(「老いて男はアジアをめざす」)
世界の主だった宗教の中で、一夫一婦制を奨励しているのは実はキリスト教だけ。仏教、ヒンズー教なども一夫多妻制を容認しています。
女系継承をするかどうかで話題になった日本の天皇が側室を取らなくなったのは、昭和天皇が即位してから。
それ以前は側室がたくさんいたので、女児しか生まれないという問題も起こらなかった。
(「老いて男はアジアをめざす」)
イスラム教の一夫多妻について知りたい方のご参考になれば嬉しいです。
【関連記事】
イスラムのセックスや性生活ーそのルールは?体位に決まりはある?禁止事項は?
コーランの章句はこちらから引用しました。
『女ノマド、一人砂漠に生きる』
エジプトの砂漠で1人で遊牧生活を送る女性サイーダとともに生活したノンフィクション。
『イスラム流幸せな生き方』
イスラムの結婚については、こちらで詳しく解説しています。ぜひお読みください。
なぜ世界でイスラム教徒が増え続けているのか?その魅力を中学生でもわかるように易しく書いた本です。