イスラムの一夫多妻|メリット・デメリットとは?
イスラムでは一夫多妻が認められており、男性が複数の妻を娶ることが可能です。なぜ一夫多妻を認めたのか?実際に一夫多妻は多いのか?一夫多妻のメリット・デメリットなどについてご紹介します。
一夫多妻を認める啓示とその背景
コーランでは一定の条件下で、一夫多妻を認めています。
「もしあなたがたが孤児に対し、公正にしてやれそうもないならば、あなたがよいと思う2人、3人または4人の女を娶れ。
だが(妻を)公平にしてやれそうにもないならば、ただ1人だけ(娶るか)、またはあなたがたの右手が所有する者(奴隷)で我慢しておきなさい。偏らないためにはこれが最もふさわしい。」(4:3)
つまり複婚が認められるのは「孤児に対し、公正にしてやれそうもない場合(孤児が理不尽な仕打ちを受けそうな場合)」だけ。
この規定は、初期ムスリム共同体がウフドの戦い(625年)の敗戦で、多くの成人男子を失った直後に啓示されており、残された未亡人と子どもたちを救うのが目的でした。
つまり特殊な環境で認めただけで、一般的に奨励しているわけではありません。
そして「妻たちを平等に」が条件です。「平等に扱えないなら一人にせよ」とわざわざ付け加えてある。
さらに同じ章で「妻たちに対して公平にしようとしても、到底できないだろう」(4:129)と言っていることから、「実際には神は一夫多妻を推奨していない」と主張する人もいます。
実際に一夫多妻は多い?
実際には「1人でも大変なのに。2人も3人もなんて‥」という男性は多く、一夫多妻は多くありません。エジプト全体では一夫多妻は0.5%くらいという統計もあります。
チュニジアとトルコは法律で一夫多妻を禁止しています。
他国でも結婚契約書に「2人目の妻をめとる場合、妻の許可が必要」などの文言を入れることもできたり、国によっては妻の同意が必要だったりもします。
イスラムでは家計は夫の負担。妻が4人いたら4家族を養う。大富豪でなければムリです。
「妻たちを平等に扱う」は、100の愛情を50ずつ分配することではありません。
1人に100なら、もう1人にも100与える。1人に豪邸を与えたら、もう1人にも豪邸を与える。
ともに過ごす時間も全く平等にする。そんなことは普通の男性にはムリ。
ただ私が長年取材してきたエジプトの遊牧民たちの中には、複数の妻を持つ男性がかなりいました。(『女ノマド、一人砂漠に生きる』)
おそらく家庭を維持する金が少額ですむという事情もあるでしょう。
たいていの場合、妻子がいるのに若い女性を好きになり、彼女と結婚。以後は若い妻にベッタリで、最初の妻の方には滅多によりつかない。
これは明らかな宗教違反です。きっと男性は死んでから地獄に落ちるでしょう。
一夫多妻のメリット・デメリット
女性の側からすれば、夫の愛情が他の女性と分割されるのは、当然やりきれない気持ちです。
また妻たちを平等にすることが困難である以上、他方の妻やその家庭が精神的にも経済的にも捨て置かれることになる。
そういった意味でのデメリットはありますが、メリットもないわけではありません。
結婚する女性が増える
特に遊牧民のような狭いコミュニティの中ではそうです。
遊牧民は遊牧民同士でしか結婚できない。でも年頃の男性はすでに結婚してしまっている。
そういう場合、一夫多妻なら結婚できる女性が増える。
実際、妻がいる男性と結婚した若い女性がいて、彼女に「どうして妻がいる男性と結婚したの?」と不躾にも聞いたところ、こんな返事が返ってきました。
「アンタみたいに、いい年して一人より、結婚した方が、セックスもできて子どもも持てるし、よっぽどいいわよ!」
子どもが産めなくても離婚されない
アラブでは日本より子作りが重視され、子どもが産めない女性は離婚されてもしかたがない場合もあります。
その点一夫多妻なら、夫は他の妻と子供をつくることができ、彼女は妻の座に留まることができる。
もちろん子どもがいなくても仲良く暮らしている夫婦はたくさんいます。
家事をシェアできる
妻が複数いれば、家事を分担しあえるというメリットもあります。
私の知人のエジプト男性には2人の妻がいました。一方は40代、他方は26才。
家事はすべて若い妻が担当し、40代の妻の方はテレビを見たりして、一日のんびり暮らしている。
そして若い妻に子どもが生まれると、子育て経験豊富な40代妻が子どものあやし方などを教える。
もちろん、最初からこんな良好関係だったわけではないでしょう。
40代の妻は「夫が他の女性と結婚するって聞いた時は、嫉妬したわよ。でも私にはどうすることもできない。だってコーランで認められた男の権利だもの。でも今はこの暮らしも悪くないと思っているわ」と清々しい表情で語ったもの。
2人の妻は同じ家で暮らし、(表面的には)仲が良さそうでした。そうするしか生きていけない妻の事情もあるかもしれません。
仕事に専念できる
バリバリ仕事する女性の中には、「夫にもう1人奥さんもらってほしい。そうすれば、ずっと彼のこと世話しなくていいし、その分仕事に専念できる」という人もいます。
扶養してもらえる上に、家事も分担でき、仕事で疲れて返ってきても、毎回夫の求めに応じる必要はない。
知人のある女性は、仕事が楽しくて離婚したものの、「誰かの2番目の奥さんになりたい。そうすれば仕事をしながら養ってもらえるから」
と言っていました。
ムスリムと結婚した私の友人も「子育てが大変。夫にもう一人奥さんもらってほしい。これ本気よ!」と。
ライバル心からおしゃれになる
結婚すると女性はついつい安心してしまい、外見にかまわなくなりがち。
一夫多妻なら「夫が他の女性とも結婚するかもしれない」という危機感が生まれ、いつも身ぎれいにと心がけるようになる場合もあります。
実際「一夫多妻があるから夫婦のマンネリ化が防げて仲が良くなる」という考えは現地にあるようで。
やや男性に都合の良い考えと言えなくもありませんが‥。
不倫よりは良い
不倫よりは、ちゃんと妻として認めてもらい、生活費も出してもらい、子ども産める。
女性にとっては、こちらの方が良いとも言えます。
日本では、夫が妻以外の女性を好きになった場合、不倫するしかない。あるいは妻を捨てて新しい女性と結婚するか。
いずれにせよ、1人を捨てることになる。
また女性の方も、不倫では望まない関係をズルズルと続け、婚期を逃してしまう‥。
それよりは、妻として認めてもらった方が良い、という考えもあるでしょう。
一夫多妻は女性差別?
冒頭で書いたように、一夫多妻はそもそも戦争によって夫を亡くした妻の救済のため。女性保護が目的です。
もし女性差別があるとしたら、妻より若い女性が好きになって結婚し、妻たちを公平に扱わないという、現代男性のよろしくない態度です。
一夫多妻は実際には男性に酷な制度です。
魅力的で財力ある男性が2人、3人の女性と結婚すれば、当然結婚できない男性がたくさん出てくるからです。
イスラム教の一夫多妻について知りたい方のご参考になれば嬉しいです。
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