イスラム教では結婚外の性では厳禁、でも結婚内では大いに奨励されていると「イスラムの性を理解する重要なポイント」に書きました。
そのため性の権利はシャリーア(イスラム法)でしっかり守られている。とりわけ夫の権利は強固に。これがかなり興味深い点です。
イスラムの夫婦の権利・義務
シャリーア上で定められた夫婦の権利と義務です。
夫の義務:婚資の支払い、妻の扶養(妻の待婚期間・離婚後の授乳期間を含む)
夫の権利:妻に対する懲戒権、離婚権、性交要求権、妻が家から出るのを禁じる権利、旅に妻を同伴させる権利、授乳を禁じる権利(シャーフィイー派のみ)、推奨された断食を禁じる権利、別の妻を娶る権利。妻の義務:性交義務(家事労働や出産は義務とは見なされない)
妻の権利:扶養請求権、一定期間妻のもとで過ごすよう要求する権利。(『イスラーム復興とジェンダー』より)
ポイントは以下の3点です。
①夫の性交要求権が強い
夫の性交要求権を満たすために、妻の行動が制限される場合があるというのは新鮮な驚きです。
まず断食。夫は自分がやりたければ、妻が「推奨の断食」をするのを禁止できる。
断食中は性交が禁じられていて、これが夫の性交要求権を侵害するからです。
(「推奨の断食」とは毎月の3日間の断食などのことで、ラマダン月の義務の断食とは別です)
そして授乳。授乳中は性交が不可能になるためです。代わりに乳母を探します。この乳母への代金はもちろん夫の負担です。
かように夫の性の権利は強い。妻は病気や体調がとても悪い場合などは別として、ただ「やりたくない」などと拒否する権利はありません。
こういうのは現地の妻たちに認識されていて、夫に求めには応じなければいけない、と妻たちは言います。
ただし応じないからといって、直ちに離婚などにつながることはないようですが。
「彼がしたいけど、自分はしたくない時は、どうするの?」
「断るのはイスラムで禁じられているのよ。でも、やさしく「今日は疲れているから」って言えば大丈夫」(『女ノマド、一人砂漠に生きる』)
それでも「やりたくない」が続けば、離婚の正当な理由になります。
②妻の義務は性交だけ
妻の義務は求めに応じることだけです。家事も出産も義務ではない。
やはりどうしても子供が産めない女性はいるもの。これも義務としてしまったら気の毒です。
とはいうものの実際は、アラブ圏では、子供を産めない女性はかなり肩身の狭い思いをします。
家事は義務ではないので、経済的に余裕があればメイドさんを雇うこともかなり一般的。
妻が外で働いていて、家でも家事をしなければならないが、疲れ切って夫婦生活どころではない。こんなときは、夫も家事を手伝うか、お手伝いさんを雇います。
だからインドネシアもパキスタンもモロッコも、中流以上の家庭にはメイドさんがいます。
パキスタンに嫁いだ私の友人は、「メイドさんが雇えるから、日本で奥さんやってるより楽だと思う」と言っていました。
③ジェンダー差がある
性交は義務でありとともに権利でもあると思うのですが、妻の場合それが「義務」とされている点も面白い。
「求めるのは男、応じるのは女性」というジェンダー差が根底にあると言えそうです。
「男性と女性は違い、男性の方が性的魅力に弱い」というのがイスラムの男女観なのです。
とはいえ、イスラムでは同時に妻が性的に満足を得る権利も認めています。
まとめ
イスラム圏の男性は結婚までセックスはおろか女性の手すら握ることは難しい。しかし結婚したら非常に強いセックスの権利を得る。妻がセックスをできなければ、第二夫人を娶ることも認められている。
若者が結婚に急ぐ気持ちもわかるというもの。
とはいうものの、結婚に際して男性の経済的負担は日本男性の比ではありません。膨大な結婚費用やマハルを払わなければならず、結婚後も家計は夫の負担。
それでも代わりに強固なセックスの権利を得るとなれば、耐えられるのか。
ぜひともイスラム男性に聞いてみたいものです。
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