2014-04-04

サフィータ*シリアの最も美しい町で

「シリアでもっとも美しい街のひとつ」と言われるサフィータという町に行きました。地中海沿いの町タルトース近郊の山の尾根に広がる小さな街。ボルジュという十字軍の要塞があり、今はギリシャ正教の教会として使われている。

サフィータ・ボルジュ

シリア サフィータ・ボルジュ  Syria Safita

サフィータは12世紀から13世紀にかけて十字軍の拠点となった場所。町にはサフィータ・ボルジュ(白い塔)という要塞が残っています。11世紀に十字軍がシリア各地へ遠征を始め、地中海沿いに城や要塞を建設しましたが、ボルジュはその一つです。周辺の城同士が連絡をとるための通信施設でした。今はギリシア正教の教会として使われています。サフィータの人々はほとんどがキリスト教徒です。

シリア・サフィータ Syria Safita

ボルジュの屋上からは、天気がよければ十字軍時代の代表的な城・クラック・デ・シュバリエが見えます。
あいにく訪れた日は空は雲が多く、視界がかすみ、クラック・デ・シュバリエは見えませんでした。
代わりに、雲の合間から淡い日光が降り注ぎ、赤い屋根の家々が並ぶ美しい町並をやわらかくやさしい光で包んでいました。まるで、絵のような光景でした。

マッタ(マテ茶)でまったりと

シリア サフィータ Syria Safita

メインストリートの道端でゲームをする人。

サフィータのメインストリートは車二台がやっとすれ違えるほどの道幅。その道の両脇に、床屋、洋服屋、カフェ、金物屋などが並んでいます。落ち着いた渋い町並です。

シリア・サフィータ シリア サフィータ Syria Safita

集まってマテ茶を飲む人たち。

町のいたるところで、男性たちが集まってお茶を飲んでいます。お茶は紅茶ではなくマテ茶。マテ茶は南米が原産地で、20世紀に南米に渡ったシリア移民たちが持ち帰って広まったそうです。オスマン帝国時代末期以来、たくさんのシリア人が南米に移住しました。南米大陸のシリア系人口は二千万人を超えるとのこと(「シリア アサド政権の40年史」)。

シリアはアラブ諸国最大のマテ茶輸入国。乾燥したマテの葉っぱにお湯を注ぎ、砂糖を入れて飲みます。小さなやかんにマテ茶が入っていて、コップが空になると、各自やかんから注ぎます。

シリアの男性たち

仕事そっちのけで団欒にいそしむ男性たち

毎日トランプざんまいの隠居生活

Syria Safita

一軒のカフェに入りました。驚いたことに、店内のテーブルを占めているのはすべておじいさん。その全員トランプをしています。賭け事をしているらしく、テーブルにノートが置かれ、各テーブルに一人ずついる書記係が何かを書き留めています。

「英語が話せるかい?」
近くのテーブルの老人が話しかけてきまました。黒縁の目がねをかけたスマートな男性。上品な感じのベージュのカーディガンを着込んだ姿は元公務員といった感じです。
「みなさん、仕事はしてないんですか?」
私がとぼけた質問をすると、
「これが仕事じゃよ」
隣の黒の革ジャンを着た白髪のおじいさんが、ワッハッハ……と大声で笑った。
「みんな六十過ぎて定年になってね。今はこうしてトランプ三昧なんです」と、ベージュのカーディガンのおじいさん。
みなさん小学生の同級生だそうです。その頃から一緒に遊んだ仲。晴れて隠居生活に入った今は、毎日このカフェに来て、同じメンバーでトランプに興じる日々だそう。
「毎日午後四時から七時まで同じメンバーでトランプするんですよ」
ベージュのおじいさんがきれいな英語で話す。
「毎日ですか!?」
「この人なんか、10年間1日も欠かさずに来てる」
と黒の革ジャンの老人を指さす。
「だから、これが仕事なんじゃよ。ワハハハハ……」と、このおじいさん、何を言っても愉快そうに笑う。

「昼間は何をしてるんですか?」
「そうじゃのう。教会に行ったり、孫のめんどうを見たり。こういう見えても、それなりに忙しいんじゃ」と、皮ジャンのおじいさんは胸を張る。
話していると、物静かな感じの店の主人がコーヒーをご馳走してくれた。この店の名は「カフェ・フルサン」。六十年以上続いているという。主人の父親の代からだ。
「ここにきてりゃ、元気な証拠さ」
皮ジャンのおじいさん。
「誰かが何日か来なかったら、息子か孫をその家に使いにやるんだ。そしたら、具合が悪くて寝込んでたこともあったな」
このトランプカフェ、ご老人の寄合所みたいな役目も担っているらしい。

「部屋のすみでストーブが焚かれていました。四月はシリアでは春。しかし山の上にあるこの町は、日が西に傾くにつれ、ぐっと冷えます。
年をとっても仲間と遊べる場所があれば、孤独を味わわなくてすむ。家でゴロゴロして、「濡れ落ち葉」なんて哀れなことを言われなくてもすむでしょう。
どこかの国では定年後の再雇用なんて言われたりしますが、定年後も働かなきゃならないなんて息苦しい。それより毎日トランプ三昧の方が、よっぽど平和で健康的で幸福。

ストーブの中でめらめらと燃える火を見つめているうちに、私は心も体もぽかぽかと温かくなっていっていきました。

【「女ひとり、イスラム旅
シリアの詳しい情報は、こちらに記載しました。ご興味あれば、ぜひお読みください。

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