イスラム教の性教育はどうしているのでしょうか?
婚前交渉は禁止ですが、結婚してから困りませんか?
結婚前にやり方について、どうやって学ぶのでしょう?
そんな疑問にお答えします。
イスラム社会の性教育事情
イスラムの性教育はどうしているのか?ほとんど「ない」が回答です。
私はインドネシア、エジプトの小学校を取材したことがありますが、性教育の授業はありませんでした。
他の国はどうなのでしょう?
マレーシアの場合
「宗教や民族を問わずに性教育ってまだまだ普及していないのが現実です。
イスラム教の授業では(性や結婚の)基本的なことを教えますが、セックスがどういうものか、避妊方法などは教えていません。
結婚する前にやってはいけないことが大事なことのため、まずそれを重視して教えています。
イスラム教徒向けのセックスに関する書籍がたくさん出版されています。結婚する前にそれを読んで勉強するかどうかご本人次第ですが。」
アルジェリアの場合
「ここでは性教育という概念はほぼ存在しません。ここは幼児暴行が大きな問題なので「ここを触られたら絶対だめ」ぐらいの教育はいま非常に必要だと思います。」
イランの場合
「性教育について学んだのは、学校教育の15年間のうち大学の1学期だけだね。女性の生理やコンドームの使い方、避妊の方法などを学んだ。
でも2014年くらいから政府が人口増加政策をとったから、この授業が大学教育から削除されたんだ。」
というわけで、ほとんどないに等しい。
エジプトの性教育については、こんなふうに書かれています。
「中学2年世のころの科学の教科書に、女性の身体の変化や生理のことが載せられている。
しかし男性教師はその項目には触れず、ほとんどの女性教師も、生理について母親から聞くよう女子生徒にすすめる。」
(「イスラム世界の常識と非常識」)
欧米と比較して
ちなみにドイツではどうなのか?
そもそもドイツの知人が「イスラム教での性教育はどうなっている?」と質問してきたのが、この記事の発端だからです。
「ドイツでは小学校3年生からペニスの模型やコンドームを使って授業します。一応男女に別れて行う授業の日もあります。
幼児暴行もあるので、息子が幼稚園のころは、保健所から来た人が、身体で他人の大人にさわられたら赤信号の箇所、黄色、緑、と信号に例えて授業に来た日もありました。」
ドイツの性教育、かなりハイレベルです!
コーランにおける「性」
性教育はありませんが、コーランには、結婚や性についての教えが随所にあります。
イスラムというと性に厳しい宗教のイメージがありますが、実際は違っていて、一定のルールのもとで快楽を求めることを認めています。
そのルールがコーランに書かれているのです。
「姦淫に近づいてはならない。それはみだらな行為で、本当に大罪です。」
←結婚外の性交渉はダメ。
「妻はあなたの耕地だから思うままに耕せ」(どんな体位でもよい)
←夫婦の間なら、どんな体位でもOK。
「妻が生理中は、性交そのものは禁止。」
ようするにコーランは、性生活も含めた生きるガイドブック。
イスラム教徒は小さい頃からコーランを読むので、ある意味コーランが性教育の役割を果たしているのかも。
その教えるところは、「結婚外の性交渉は禁止だが、夫婦の間では大いに楽しめ」なのです。
(詳しくは→イスラムのセックスや性生活のルール。体位に決まりはある?禁止事項は?)
結婚前に「性の知識」をどうやって得るのか?
では、いざ結婚となった時、「やり方」はどうやって学ぶのか?
女性の場合
男性はさておいて、女性は結婚まで処女の方が多いです。
「イランでは女性が結婚前に処女を失うと、政府だけでなく社会から制裁を受けるからね。その後結婚のチャンスを失うし、家族も社会から恥を受けることになる。」(イラン人男性独身)
結婚まで処女を守らなければならないことについて、女性自身はどう思っている?
これは「イスラム教の女性は結婚まで処女? 本人はどう思っている?」をお読みください。
情報入手先①は、結婚した姉妹などです。
お姉さんからやり方を教わったわ。
「足を閉じてはダメよ。深呼吸してリラックスしてゆっくり開くの」。
「でも最初から足を開いてはダメ。彼が開こうとしたら、それに従って開くの。そのとき力を入れてはダメよ。」
(エジプトの友人ワファ。7人姉妹の5番目。)
情報入手先②は、結婚した友人。こちらはチュニジアの例です。
イスラムの結婚した女性というのは、(結婚前の)花嫁に何かと結婚の心得を話すのが好きだ。初夜や夫婦生活についてである。
イナスさんは結婚して三ヶ月。新婚ホヤホヤ。こういうこともあって、夜な夜なゼイナブさん(新婦)に新婚生活のノロケ話を聞かせては楽しんでいる。
「結婚する前は、夜明けのお祈りを欠かさずやってたもんよ。でも今はダンナとイチャイチャするのに忙しくって、だいぶさぼってるわ」。
イスラムの女性は女性同士となると性の話も積極的だ。
彼女の初夜はこうだった。
「最初はすごく怖かったわ。でも血がハンカチに着いた後はすごくリラックスできて、それからカレといろんな話したり冗談言い合ったりして朝まで起きてたの」
(イスラム世界では初夜に純血の印(ハンカチに付いた血痕)を家族などに見せることがあります。「確かに処女だった」という証明です。)
翌朝目が覚めると、ご主人の携帯が鳴った。彼の母親からだ。
彼らが起きているのを知った母親は、さっそく二人の新居にやってきた。部屋のドアをバーンと勢いよく開けると、開口一番、彼女は叫んだ。
「ハンカチはどこ?」
臨場感たっぷりな話ぶりに、ゼイナブさんは神妙な顔つきで聞き入っている。
「『おはよう』もないんだから! おどろいたわ」とイナスさんが言うと一堂爆笑。
母親は、ご主人から血のついたハンカチをあひったくると、嬉しさのあまり、ザガリート(舌をふるわせて出す歓喜の声)を張り上げた。
ご主人はハンカチを袋に入れ、イナスさんの母親の元へ届けた。
(「女ひとり、イスラム旅」)
情報入手先③は、宗教指導者です。
性についての相談を宗教指導者にする!?
イスラム教徒は、日常の行動がイスラム的に正しいかどうかを気にし、疑問があれば宗教指導者に相談します。
「性」についても同様です。
エジプトでは電話で相談できる「イスラーム電話」もあります。
性などセンシティブな内容は、電話の方がやりやすいですね。
「結婚を間近に控えた女性や、結婚したての女性たちの性に関する悩みもしばしばイスラーム電話に寄せられる。
エジプトでは結婚以前にほとんど性教育がなされず、未婚の女性に性に関する話をすることがタブー視されているためで、初夜に対する恐れや結婚後の性生活のトラブルなど、母親やおばに聞くのは恥ずかしく独身の女性の友だちにも話せない、という悩みをイスラーム電話に持ち込むケースがほとんど。」
女性、20代:
「もう少しで結婚します。結婚について、いろんな悪い話を聞くので怖くって‥。痛いって聞きました。(途中略)不安で落ち着きません。」
それに対する回答:
「悪い話に惑わされないようにしなさい。床入りについて、いろいろ聞いたことがあると思いますが、痛いとか困難だとか、そういうふうに困ったり怖がったりすることはないのです。確かに、そういうケースもあることはあるでしょうが、同意の上で行為を進めれば、基本的には何にも問題がないことなのですから。」
(『イスラーム復興とジェンダー』)
男性の場合
今はもちろんインターネット・サイト、海外のポルノビデオなどが入手できます。
ただ入手しやすさは国によって違うようです。
「他の国なら簡単に性の情報がネットで見られるけど、イランは検閲が厳しいから、特殊なソフトを入れる必要がある。それがものすごくネットの速度を遅くするんだ」
また性交や妊娠などについては、高校生くらいになれば友人などの話で知ることも多いそう。
本当に結婚まで処女と童貞?風俗は?
女性は処女がほとんどですが、男性はどうなのか?
実際にはけっこう楽しんでいるようです。
フィフィさんの本「日本人に知ってほしいイスラムのこと」から。
「ねえ、君たち。エジプトじゃ、女の子は結婚前にエッチしちゃいけないっていうけどさ。男の子はどうしてんの?」
そうしたら意外な返事が返ってきました。
「あそこに未亡人が住んでいるんだよ」「あの家には教えてくれるお姉さんがいるんだ」
どうやら、若い男の子の「筆おろし」をしてくれる女性がいるようなのです。
日本でも「処女を守らなければいけない」という考え方があって、遊郭などがない地方では、面倒をみてくれるおばさんにお願いしていたようです。
こちらはイランの場合。
「今は結婚前に隠れてやる若い人も出てきたけど、性感染症に対する正しい知識がないから、病気が蔓延する原因にもなったんだ。」
風俗も、合法ではないが実際にはあるようです。
初めて同士、結婚して困らない?
経験済みの男性はいるものの、多くの人は処女&童貞で結婚。いざ結婚してから問題はないのか?
「イランでは、結婚してから初めて相手の体のことを知るから、それが原因で離婚するというのも残念ながらあるね。」
ただ「性の相性」、「上手・下手」は、かなり本人の主観が大きいのではないか?というのが私見です。
それに経験がなければ、「合う・合わない」はありえないのでは?
「性の不一致」は、経験がないと言えない事だと思う。2人、3人と色々な人と経験しているからこそ、合う・合わないって話が出てくるのでは。
処女で結婚するのって、いいと思う。初めて異性と寝て緊張したりドキドキしたりするその価値が、2人目、3人目といくと薄れてきてしまうという、という感じかな。」
ジャナートさん(30代女性・バングラデシュ男性と結婚して9年)
「性の相性」というのは、ある意味フリーセックスの世界の人が考え出した概念であると言えなくもないです。
それは贅沢なことでもあれば、不幸のタネでもあったりもする。
婚外の性を楽しむチャンスがない人は、「相性」を吟味する自由もないが、相性云々で悩む不幸もありません。
人間、知らなくて良いこともたくさんあります。
日本も一昔前は、ほとんどが初めて同士で結婚していました。
それで「セックスの相性が悪いから離婚」が、そんなにあったでしょうか?
もちろん離婚の自由がなかったといえば、それまでなのですが、初めて同士で結婚して、そこそこ幸せにくらしていたのではないか?と両親や同年代の人たちを見ていて、そう思います。
なまじ経験があると、前の異性と比べてしまい「やっぱり彼の方がよかったな」など思ってしまったりするもの。
比べる対象がないのは、それはそれで幸せかもしれません。
婚外交渉が禁じられたイスラム世界では、(もちろん不倫はないことはないが、ずっと少なく)、日本のように頻繁に外の異性の誘惑にさらされることなく、一生自分のパートナーだけを相手に暮らす。
これは地味だが意外に悪くない幸せなのでは?と思ったりもします。
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20年間にわたり取材したイスラム女性たちのリアルな日常を紹介。モロッコ、チュニジア、エジプト、イラン、パキスタン、モルディブ‥‥。歌あり踊りありデートあり。「抑圧」などメディアによって作られたイメージと違う、生き生きした女性たちの実像を紹介します。