2024-05-15

ルクソールの祭り*マウリド・アブ・アル=ハッガーグ Moulid Abu al-Haggag 

マウリド・アブ・アル=ハッガーグ Egypt-Moulid Abu al-Haggag ルクソールの祭り

マウリド・アブ・アル=ハッガーグで、祀られている聖者アブ・アル=ハッガーグAbu al-Haggagの廟を参詣する人々。祭りの期間中は人が絶えることがない。人々は廟に額をこすりつけたり、祈りを捧げたりする。

古代遺跡で知られるエジプト南部の町ルクソール。ここで年に1度の大きな祭り「マウリド・アブ・ハッガーグ」が行われます(2024年は2月22~24日)。13世紀のスーフィー聖者、アブ・アル=ハッガーグAbu al-Haggagのマウリド(生誕祭)です。

マウリドとは?

マウリド・アブ・アル=ハッガーグ Egypt-Moulid Abu al-Haggag ルクソールの祭り

マウリド会場であるルクソール神殿前の広場は、祭りの間大勢の人々で賑わっている。奥に見えるのがルクソール神殿とガーマ・アブ・アル=ハッガーグ。

マウリドとは預言者イスラム聖者の生誕祭のこと。聖者とは預言者の子孫や高名な学者、スーフィー指導者などで、その聖者の廟を中心に祭りが行われます。(スーフィーとは、スーフィズム(イスラム神秘主義)を実践する人たちで、独特な儀礼を行って神に近づこうとする人のことです)

イスラムではアッラー以外のものを崇拝することは固く禁じられているものの、実際には聖者などを崇敬し、その墓を詣でたり、マウリドを祝うことはイスラム世界全体で盛んに行われています(*イスラマバードの聖者廟)。

マウリド・アブ・アル=ハッガーグ Egypt-Moulid Abu al-Haggag ルクソールの祭り

マウリドに来た親子。子どもたちは顔にアニマル・ペインティングを描いてもらうのが楽しみ。

マウリドの発祥はエジプトです。13世紀頃から預言者の生誕祭(マウリド・アンナビー)が行われるようになり、次第にさまざまな聖者のマウリドが開催されるようになりました。

今もエジプトはスーフィズムやマウリドがとても盛んで、年間に多くのマウリドが開催されています。その中で最も大きなマウリドの1つが、このアブ・アル=ハッガーグのマウリドです。

マウリド・アブ・アル=ハッガーグ Egypt-Moulid Abu al-Haggag ルクソールの祭り

ガーマ・アブ・アル=ハッガーグの広場には、祭りの3日間たくさんの出店が出る。子供たちは廟の参詣よりも、おもちゃの物色の方が楽しい。

イスラムの祭りは他に、イードという2大祭(ラマダン明けの祭りと犠牲祭)があり、これはどちらかというと集団礼拝と親戚友人への訪問が主。対してマウリドは、出店が出たりして縁日のような賑わいがあり、日本人がイメージする「祭り」に近いかもしれません。

マウリド・アブ・アル=ハッガーグ Egypt-Moulid Abu al-Haggag ルクソールの祭り

マウリドに来た家族連れ。お父さんが肩車するのは世界共通。子供の頭には、エジプトのマウリドにつきもののとんがり帽子が。

ルクソールにはキリスト教徒もかなり暮らしているのですが、このマウリドにはクリスチャンももちろん参加して楽しんでいます。

アブ・アル=ハッガーグAbu al-Haggagとは?

マウリド・アブ・アル=ハッガーグ Egypt-Moulid Abu al-Haggag ルクソールの祭り

ライトアップされたガーマ・アブ・アル=ハッガーグ。

そのアブ・アル=ハッガーグAbu al-Haggagは、13世紀の偉大なスーフィー指導者。(正確にはシェイク・ユセフ・アル=ハッガーグ/ Sheikh Yusuf al-Haggag)

12世紀半ばにダマスカスで生まれ、その後メッカに移り住み、最後にルクソールで定住しました。ルクソールの守護聖人として崇められていて、親愛をこめてアブ・アル=ハッガーグ(巡礼の父)Abu al-Haggagとも呼ばれます。

マウリド・アブ・アル=ハッガーグ Egypt-Moulid Abu al-Haggag ルクソールの祭り

彼を祀ったモスク、ガーマ・アブ・アル=ハッガーグはルクソール最古のモスク。なんとルクソール神殿の中央部を壊して建てられています。上の写真の後ろに見えるのがルクソール神殿とモスクミナレットです。

マウリド・アブ・アル=ハッガーグの日にち

マウリド・アブ・アル=ハッガーグ Egypt-Moulid Abu al-Haggag ルクソールの祭り

マウリドの最中、ガーマ・アブ・アル=ハッガーグに集まった人々。ルクソールやその近辺の町や村から大勢の人が訪れる。

実はこのマウリドの日にちを知るのが、けっこう難しいのです。マウリドはラマダンや巡礼など他の宗教行事と同様、イスラム暦に沿って行われますが、イスラム暦は太陰暦のため、マウリドの日にちは毎年2週間ほど前倒しになります。

アブ・アル=ハッガーグのマウリド開催日は、ラマダン月の1つ前のシャーバーン月の中頃。日にちを知るのは簡単そうですが、聞く人聞く人が皆、違う日にちを言うので、はっきりした日にちを知るのが大変でした。ハッガーグのマウリドはもちろん、ルクソール市民に愛されたビッグイベントですが、だからといって誰でもが興味を持つわけでもないようです。

古代エジプトにルーツが

マウリド・アブ・アル=ハッガーグ Egypt-Moulid Abu al-Haggag ルクソールの祭り

マウリドの最終日には、ファラオ時代を模したパレードが行われる。これはその昔、カルナック神殿からルクソール神殿に、神々の乗った天の舟を運ぶために僧侶が行った旅を再現するもの。

このマウリドがユニークなのは、ルーツが古代エジプトにあるということ。マウリドの最終日には、ファラオ時代を模したパレード(ドラ)が行われますが、これはカルナック神殿からルクソール神殿に、神々の乗った天の舟を運ぶために僧侶が行った旅を再現するものです。

マウリド・アブ・アル=ハッガーグ Egypt-Moulid Abu al-Haggag ルクソールの祭り

かつての祭りのクライマックス。ここ3、4年はコロナのため、ドラ(行進)は行われていない。

このドラには、箱型の神輿を乗せた数頭のラクダが登場します。残念ながら、2024年のマウリドではコロナの関係もあり、ドラは行われませんでした。写真は10年ほど前のマウリド・アブ・ハッガーグのもの。当時が懐かしいです。

格闘技アサヤ

アサヤ(タフティブtahtibとも呼ばれる)は、上エジプトの大衆に人気のある格闘技。歴史は少なくとも3,000年前のファラオ時代にまでさかのぼるという。

勇志2人が人々の輪の中に出て、手にした棒を振り翳して戦い合う。本格的に争うというよりは、踊っているようにも見える。

祭りの舞台はルクソール神殿の広場とその周辺です。広場には様々な品物を売る出店で賑わい、時々突発的にアサヤ(タフティブtahtib)の大衆競技が行われることも。

マウリド・アブ・アル=ハッガーグ Egypt-Moulid Abu al-Haggag ルクソールの祭り

アサヤの格闘技が行われている間、ローカルのミュージカルバンドが演奏して場を盛り上げる。笛はミズマーという木管楽器。

アサヤは上エジプト(エジプト南部のこと)の大衆に人気のある格闘技で、その歴史は少なくとも3,000年前のファラオ時代にまでさかのぼるそう。アサヤが行われている間、ローカルのミュージカルバンドが演奏し、場を盛り上げます。手前の笛はミズマーという木管楽器です。

マウリド・アブ・アル=ハッガーグ Egypt-Moulid Abu al-Haggag ルクソールの祭り

アサヤ競技を楽しそうに見学している地元の男性2人。

無料で食事を提供

マウリド・アブ・アル=ハッガーグ Egypt-Moulid Abu al-Haggag ルクソールの祭り

マウリドの会場で人々に無料の食事を配るA。彼はエジプト中のマウリドを渡り歩き、食事を提供している。財源は裕福な人の寄付。

またエジプトのマウリドで面白いのは、無料で大勢の人に食事を提供する人がいること。写真のAさんは、人々に食事をふるまうこと30年。おじいさんの代からだそう。理由は「アッラーのため」。つまりアッラーが喜ぶ善行を行って天国へ行くためです。食事の財源は裕福な人の寄付。寄付ももちろん施しという善行を行って天国へ行くためです。

Aさんはエジプト中の全てのマウリドに行って食事を提供しているそうです。その数30。ルクソールには3日間いて、翌日はケナのマウリドに行くとのこと。マウリドをめぐりながら生きているかのようです。

マウリド・アブ・アル=ハッガーグ Egypt-Moulid Abu al-Haggag ルクソールの祭り

人々に無料で食事を提供するAさんのシェフのグループ。この日作っているのは牛肉のトマト煮込みスープ。私もいただいたが、舌がとろけるような美味しさだった。

マウリドの期間中は地元の人の家の1部屋を間借りしています。「豪華なところに住むのはアッラーの望むところではない」。ちなみに家はカイロ。ラマダン中ももちろんカイロで神の食卓ラマダン明けのイフタールを無料で提供する食卓)を毎日開催します。

マウリド・アブ・アル=ハッガーグ Egypt-Moulid Abu al-Haggag ルクソールの祭り

マウリド最終日にはドレスアップしたラクダなども登場。

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ルクソール神殿前の広場で憩う家族連れ。

人々の楽しんでいる姿を見ていると、こちらも楽しい気分になります。来年はドラが復活していますように。

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