日本では一般的に「イスラムは女性差別の宗教だ」とイメージされているようです。
本当にイスラムは女性差別の宗教なのか?
この問いに答えるのは実は容易ではありません。「イスラム」と言う時、それが何を指しているのか不明瞭だからです。
コーランなのか?ある特定の地域の慣習なのか?
ムスリムたちの慣習なのか?学者たちの主要な見解なのか?
それによっても女性差別かどうかは変わってきます。
その上で、なるべくコーランなど「イスラムの基本的なことがら」に即し、「女性差別とは必ずしも言い切れない」事実をご紹介します。
コーランは男女平等を定めている
コーランは男女平等を含めた全ての人間の平等を定めています。
人に上下があるとしたら、それは信仰心の度合いだけです。
スカーフは美しさを大切な人にだけ見せるため
女性の美しさは大切な人にだけ見せるものというのがイスラムの考え方です。
だから女性たちは家で口紅をぬり、着飾り、香水をつける。きれいでいるために脱毛も念入りにする。
結婚前にろくにお付き合いできない変わり、結婚してから「恋愛する」「恋人気分を味わう」夫婦が多いのです。
男女の付き合いは結婚が前提
イスラムでは婚外の性交渉が禁じらており、結婚前の男女のお付き合いは禁止。付き合いは全て結婚が前提です。
男性は気に入った女性がいたら、まず女性の父親に結婚の承諾を得なければならず、「婚約」してから交際がスタートします。
これは不自由なことにも思えますが、女性にとっては付き合う上で結婚が保証されているため安心とも言える。
もちろん婚約破棄するのは自由。実際しばしば起こります。
(←男女の恋愛は御法度、婚前交渉禁止。どうやって相手を見つけるの? 【イスラム女性の恋愛・結婚事情】)
結婚時に男性はマフルを払い、離婚時の慰謝料を決める
イスラムの結婚では男性が女性にマフルを贈るのが義務とされています。
マフルは結納金と訳されることが多いのですが、実際には「贈り物」に近い。
そして結婚時に、離婚時の慰謝料を決めます。これは離婚された女性の補償金の意味合いがあります。
結婚は人間がやることだから間違いはある、愛ほど不確かなものはないと考えるからです。
生活費は夫の負担
生活費は夫の負担とコーランに明記されています。
ただし女性の就労を禁じているわけではありません。そしてたとえ妻の方が収入が上でも、家計は夫の負担。
また結婚前に女性が持っていた財産は、結婚後も彼女の個人財産とされます。
(←イスラムの結婚制度:夫婦の役割分担=家計は夫の負担。それは女性差別?)
結婚生活は愛と安らぎがベース
生活費は夫の負担だが、これは妻が夫に従属することを意味してはいません。
イスラムの結婚観は「愛と情」がベースにあり、「夫婦はお互いを温め合う衣のようなものだ」とコーランで明言しています。
(←イスラムのイメージが変わる!愛と官能にみちたイスラムの結婚観)
母性が尊重されている
ハディースは「天国は母親の足下にある」という言葉もあり、イスラムでは母性が尊重されています。
妻が授乳が大変な場合には、乳母を雇うことも決められています。
一夫多妻は夫を亡くした妻の救済制度
男性に複数の妻を娶ることを認めたのは、戦争で先立たれた妻と孤児の救済のため。
そして複数の妻を娶った場合には、全く平等に扱うのが義務と定めらています。
それはほとんど不可能に近く、実際に一夫多妻は非常に少数です。
男女隔離で女性の社会進出が促進される
イスラム社会は男女隔離が原則。そのため女生徒には女性教師が、女性の患者には女医が求められます。
かえって女性の社会進出が促進される側面もあります。
名誉殺人や割礼はイスラムとは無関係
名誉殺人や女子割礼といった女性差別的な事例はイスラムに起因するものではなく、男性優位的な地域の慣習です。
イスラム社会では親が決めた相手と顔も見ずに結婚するケースもありますが、これも地域の慣習であって宗教とは無関係です。
見合い結婚は少なくありませんが、結婚までに何度か会い、女性の意思を確かめるのが普通です。
(←イスラムは女性に厳しい宗教?男性優位社会や地域の慣習との関係)
まとめ:イスラムは男尊女卑なのか?
以上、「イスラムは女性差別の宗教」とは必ずしも言えない理由をご紹介しました。
もちろんイスラム世界は広大で、「イスラム女性」とひとまとまりにはできません。その上であえて共通項をあげるとすれば、コーランという神の教えを信じ、それに従って生きていること。
その意味でコーランが女性や男女をどう規定しているかを見ることは意味があると考えます。
そしてそれは決して女性差別的なものではなく、6~7世紀としてはかなり進歩的で男女平等志向だったのです。
「クルアーン(コーラン)の「精神」は「男尊女卑」を認めていたというよりも、むしろ、男女の性的役割を明確にし、立場の弱かった女性の地位を改善する方向に向かっていたようである。‥
当時、女児よりも男児が生まれることが親にとっての名誉とされており、貧しいと女児を生き埋めにする習慣がああったら、クルアーンはそれを禁じた(16:58~59)
また女性には遺産相続権が認められていなかったが、男性の半分という規定ではあるものの、それを認めている。(4:11~12、176)‥
これらを見ると、クルアーンは前時代的というよりむしろ、当時としては相当進歩的な、男女平等を志向する思想を掲げていたことが明らかであろう。」
(「クルアーン神の言葉を誰が聞くのか」)
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