イスラム教の女子は学校に行けないのか?
一人で外出したりできない?
女子割礼は義務?
結婚前に性行為したら名誉殺人で殺される?
イスラム教の女性についての様々な疑問にわかりやすくお答えします。
この記事を書いている著者は、イスラム入門書『イスラム流幸せな生き方』など多数の本を出版しています。
「イスラム圏を取材しています」と言うと、「イスラムの女性はブルカで顔を隠している人ばかりですよね?」とよく言われます。
最近はニカブという顔を隠す布も日本で知られるようになり、イスラム女性は皆顔を隠しているものとイメージされがちです。
たしかにマスコミなどでは、そういう女性が多く登場するのは事実です。
しかし実際には、顔を隠している女性はごく少数です。
「みんな黒づくめの格好してるんでしょ?」
と聞かれますが、これも一部の女性だけです。
マスコミで報道された一部の事実が拡大解釈されるのはよくある事ですが、イスラム圏ではそれが甚だしい。
特に「女性」については顕著です。
ここではイスラム女性の「現実」を詳しく紹介します。
目次
顔を隠すのは義務?
義務ではありません。
コーランには「顔を隠せ」と明示した箇所はありません。
(参考:コーランとは?日本人が知らない真実)
写真中央の女性のように顔を隠している女性もたまに見かけますが、全体の中でみればごく少数。
顔を隠さなければならないというルールもありません。
髪を隠すのはイスラム教だから?
髪も隠すのも厳密には「義務」ではありません。
コーランには明確に「髪を隠せ」と書いた箇所はありません。
スカーフ着用が法律で決められているのはイランやサウジアラビアだけ(サウジアラビアは2019年にスカーフ着用が義務ではなくなりました)。
本来、かぶる・かぶらないは自由です。
それでもかぶる人が圧倒的多数ですが、多くは自ら進んでかぶっているのです。
(参考:「女性は宝石」。イスラム女性がヒジャーブで髪や肌を隠す「本当の」理由)
また髪を隠す習慣はイスラム圏だけのものではありません。
イスラーム以前のササン朝ペルシャや、スペインなど地中海沿岸地域でも、女性がヴェールで顔や体を覆うことは珍しくありませんでした。
「ヴェールの着用の習慣にしても、イスラーム以前のササン朝においてもちいられていたものであり、ムハンマドの生存中ヴェールの着用を義務付けられていたのは、彼の妻たちだけであった」
今もイスラム圏のキリスト教徒やユダヤ教徒の中には、スカーフで髪を隠す女性はいます。
家の中でも黒づくめの服?
外出時にはチャドルやアバヤ姿でも、家の中では普通の格好です。
ジーパンにタンクトップなど私たちと全く変わらない服装。
外出時に体の線や肌を隠すのは、美しい部分は、夫など大事な人にだけ見せるものだからです。
(参考:黒いアバヤの中に着ているものは?)
女子は学校に行けない?
イスラム教は女子教育を禁じていません。
コーランには、「男性も女性も知識を得るべき」と書かれています。
『アッラーはあなた方の中、信仰する人や、知識を授けられた人に多くの位階を上げます。』
(58章11節)
『知識の探求は、全ムスリムにそれぞれ課されている』というハディース(預言者ムハンマドの言行録)もあります。
最近はパキスタンでもイランでもサウジアラビアでも、大学への進学率は女子の方が上回っています。
イスラム過激派組織「タリバン」が女子の学校教育を禁じ、それに従わないマララ・ユスフザイさんがタリバンに銃撃され、後にノーベル平和賞を受賞したのは日本でも知られています。
だから「イスラム圏では学校に行けない女子が多い」と思われるかもしれません。
パキスタンは貧富の差が非常に大きな国で、経済的事情から学校に行けない女子も存在します。
しかしイスラム教が女子教育を禁じているわけではないのです。
外出・外での一人歩き・働くことができない?
女性も1人で普通に外を歩いています。
イスラムの戒律には厳格なサウジアラビアの女性でさえ、一人歩きしている女性を見かけることもあります。
女性一人旅などは日本ほど一般的ではありませんが、女性は保護するべきものという社会通念があるためと、個人より家族や友人と旅行するのを好むからです。
もちろん女性も働いています。
それどころか、バングラデシュやトルコ、パキスタンでは女性が首相になりましたし、インドネシアでは女性の大統領が登場。イランには女性の副大統領もいます。
自転車・車の運転ができない?
車の運転をする女性はたくさんいます。
サウジアラビアでは以前女性の車の運転を禁じていました。
これは国の法律ではなく、運転免許を女性に発行しなかったためです。
2018年6月にこの国でも女性の運転が解禁されました。
自転車に乗る女性はそれほど多くありません。
しかし中東、とりわけ湾岸諸国は完全な車社会です。
町のつくりが車用で歩道が少なく、そして町は非常に広い。しかも暑い。
そんな中、徒歩や自転車で移動するのは現実的ではありません。
プールや海に入れない?
女性も海やプールに入って遊びます。
ただ日本や欧米のように肌を露出した服装で男性の中で泳ぐことはありません。
家族以外の男性の前では顔や手以外の肌を見せないのが決まりだからです。
名誉殺人はイスラム教の教え?
未婚の女性が男性と関係を持ったため、実の父親や兄に殺される名誉殺人。
実際にパキスタンやヨルダンのイスラム圏の国々で起こっています。
これはイスラムの教義とは無関係で、イスラム教徒以外にもあります。
インドのヒンズー教徒の間にもありますし、2005年にはヨルダン西岸都市ラマラのキリスト教徒の間でも起きています。
レイプの被害者は「姦通罪」でむち打ち?
「イスラームを国教とする国では、信徒のレイプ被害が明らかであれば、被害者が姦通罪に問われてむち打ちの刑を受けることはない。」
(「日本のイスラームとクルアーン」)
また本来イスラム教で姦通罪が成立するには、4人の証人が必要です。
4人が実際に「やった」場面を目撃しないといけないのです。
ですから姦通罪はまず立証不可能です。
割礼は義務?
未婚女性のクリトリスを切除する女子割礼は、イスラム教では奨励していません。
割礼が行われているのは主に東北アフリカですが、エチオピアやケニアなどイスラム社会以外でもあります。
またイスラム圏でもイランやパキスタンなどでは割礼は行われていません。
つまり地域の慣習です。
たまたまイスラム圏で行われているため、イスラムと結びつけられて語られてきたのが実情です。
ただ男性の割礼は推奨行為です。→割礼とは?日本人男性がイスラム教に入信したら割礼が必要?
見合いで好きでもない人と結婚させられる?
イスラム社会では結婚は見合いが主流です。
見合いというと、好きでもない相手との結婚というイメージがありますが、本人の意思に反して結婚させられるわけではありません。
今はパキスタンでも恋愛結婚が増加しています。ただこれは「半見合い」と言われるもので、2人が好意をもったら互いの両親に相手を紹介し、見合いの形に持っていく結婚の形態です。
(参考:パキスタン人の今どきの恋愛結婚事情)
ただパキスタンなど一部の保守的な地域で、相手の顔をほとんど見ずに結婚するケースもありますが、これもイスラムに起因するというより、地域の風習です。
結婚前の自由な男女交際は基本できないことになっていますが、それは婚外交渉を禁止しているからで、なぜなら家族・夫婦に価値を置いているからです。
イスラムは女性差別?
コーランでは男女平等をうたっています。
『男でも女でも、あなたがたは互いに同士である』(3章195節)
イスラムの遺産相続は、女性が男性の半分というのはよく知られること。
これは男性が家計を負担するためです。
たとえ半分しか相続をもらえなくても、結果的には女性が得をする社会システムとなっています。
(参考: 結婚は女性に有利。生活費は夫の負担・離婚時の慰謝料も決める)
さいごに:ニュースは「不幸」な話題を取り上げる
イスラムの人々の普通の日常が日々報道されることはほとんどありません。
ニュース性がないからです。
戦争、殺人などセンセーショナルな事でなければ、ニュースになりません。
「他人の不幸は蜜の味」とはよく言ったもので、人にとっては、他人の不幸ほど面白い。
「それに比べ、日本は平和でいいなあ」と思ってくれたら、為政者としてこれほどありがたいことはありません。
そのためにマイナスの出来事のみが報道されることになり、その国の良くないイメージだけが先行してしまう。
海外の情報、特にイスラム圏のそれは、非常に偏っています。
(参考:イスラム圏は危ない?ニュースの裏に隠された「中東イスラム圏」の素顔)
【参考図書】
20年間撮影したイスラム女性達の写真集。モロッコ、チュニジア、エジプト、イラン、パキスタン、モルディブ‥‥。歌あり踊りありデートありの楽しくリアルな日常。
「抑圧」などメディアによって作られたイメージと違う、生き生きした女性たちの実像を紹介します。
★イスラム女性については、こちらの本でも詳しく解説しています。
ぜひ合わせてお読みください。
【『イスラム流幸せな生き方』】
なぜイスラム教徒が世界で増え続けているのか?その魅力を中学生でもわかるように易しく書いた本。この一冊で、イスラムのイメージが変わります。