イスラムでは婚外の男女関係は禁止です。女性は外出時に肌の露出をひかえなければならない。ラマダンの間は一ヶ月の間、日中は飲食禁止‥‥。
「なんて禁欲的な宗教なんだ」と思われる方も多いことでしょう。私も行く前は、そう思っていました。
一方でイスラム人口は増え続けています。各種の予測によれば2050年には世界の3人に1人はイスラム教徒になるそうです。
人に苦行や禁欲を強いるばかりの宗教だとしたら、これだけ信者が増えるでしょうか?
禁欲ばかりしていて、子どもがどんどん増える?
実はイスラムは、人々の欲望を大いに認める、人にやさしい宗教なのです。
イスラムは禁欲を否定
キリスト教は禁欲を推奨し、食や金儲け・性的なものを控えるのがよしとされますが、イスラムでは禁欲を推奨していません。
人間を欲望をもつ存在と認め、食欲、金銭欲、性欲を肯定し、一定の条件のもとで快楽を追求することを奨励しています。
独身主義も奨励しないため、俗世を捨てて人里離れて長期に行う修行・修道院制度も認めていません。
性欲を肯定(一定のルールのもとで)
イスラムは人間が性欲を持つ存在だと認め、一定のルールのもとで楽しむことを奨励しています。
そのルールとは、楽しむのは「夫婦間のみ」ということです。
夫婦の性を奨励
夫婦の性生活は「善行」とされています。
『夫婦が情愛を交わせば、報償としてアッラーのお恵みが与えられる。禁じられた性にうつつを抜かしていれば罰せられるように』(『ムスリムのハディース』)
*参考:「ハディース」については、「ハディースとは何か?」
「善行」とは宗教上の良い行いのこと。つまり宗教で夫婦に積極的に交わるよう勧めているのです。
宗教で「性」について扱うのは、イスラムの最大の特徴とも言えます。
「禁欲を尊んだ初期キリスト教の父祖たちとちがって、(預言者)ムハンマドはセックスが人生最大の喜びのひとつで、結婚は男女を不審心な交から守ってくれると考えた。
そこで、彼は信者に結婚をすすめた。
彼はこう宣言した。そこで、イスラム社会では、禁欲はないことになった。」(『愛はなぜ終わるのか』)
ではなぜ婚外の関係を禁じるのか?
夫婦という「安定した関係」の中で楽しむべきと考えるからです。一夜限りの関係でなく。
「性」を大切なものと考えるからです。
夫婦生活を盛り上げるアイテム
イスラム圏の町中には、女性下着店が当たり前のようにあります。
ショーウィンドーには日本人なら正視をはばかられるような食品が堂々と売られています。しかも目抜き通りに。
これらの下着は、結婚したマダムのものです。
夫婦の夜を楽しむために、セクシー下着は欠かせません。
夫婦の交わりは上に見た通り「善行」ですので、宗教的に全く問題はなく、むしろ大いに奨励されるべきものなのです。
初夜のベッドを飾る
夫婦の性は宗教で奨励されたものであり、イスラム社会では性に対して「恥ずかしい」、「汚らわしい」などの考えはありません。
「神聖なもの」「素晴らしいもの」です。
そのため結婚式の初夜には、夫婦のベッドを花などで飾りたてます。
中東だけでなく、インドネシアやマレーシアなどアジア圏でも同様です。
初夜は初めて2人が結ばれる神聖な夜だからです。
寝室の「お披露目」は、結婚式だけに限らない。イスラム圏の家に招待されると、美しく飾り立てられた寝室を自慢げに見せられます。
ベッドが花柄のベッドカバーで美しく飾り立てられていたり‥。
寝室は家の中でも一段と「力」が入っている場所です。
日本と性の考え方が対照的です。日本は婚前交渉は自由、性風俗産業が盛んで、一見「性にオープン」なように見えますが、反面「性=汚らわしいもの」というネガティブな考えがあります。
イスラム圏にはこういう考えはありません。
ヒジャブ・スカーフは抑圧?
女性が肌や髪を隠すことについては、どうでしょう?
中にはニカブやブルカで顔まで隠している女性さえいます。外から見れば女性の自由を制限しているように見えます。
しかし女性たちは家の中では、タンクトップや短パンなど私たちと同じか、それ以上に派手な服装をしています。
「おしゃれをする場所がちがう」だけなのです。
美しさを見せるのは夫だけ
なぜ肌や髪を隠すのか?
イスラムでは、女性の美しさは夫など「大切な人」だけに見せるものだからです。
(→「女性は宝石」。イスラム女性がヒジャーブで髪や肌を隠す本当の理由)
自分を愛し、大切にしてくれる人だけのために着飾る。
見ず知らずの男性の目を楽しませるものではありません。
肌を隠すメリット
肌の露出を控えることで、痴漢にあう確率も減ります。
社会生活では、女性は外見で判断されずに実力で勝負することができる。
男性にジロジロ見られる煩わしさが減り、のびのび暮らすことができます。
外では黒づくめ。家の中では愛する人のために思う存分に着飾る。
おしゃれの対象とシーンが違うだけなのです。
ラマダンは苦行?

イランのラマダン風景。断食明けには家族や親戚と揃って食事する。
ではラマダンはどうでしょう?
一ヶ月も断食する。日中だけとはいえ、これはかなりの苦行です。
が、日没後は毎日宴会です。そして食卓には普段より豪華な食事が並ぶ。
だからラマダン中はかえって太ってしまう人が多いのです。
断食した後だからこそ、食事の美味しさが何倍にも増すのです。
(詳細:ラマダンとは?太る人が続出!宴会続きのお祭り! )
天国には処女が待つ
イスラムでは、人は死後天国か地獄に行くことになっています。
その天国と地獄の描写がコーランにありありと描かれており、天国はまさに官能の世界です。
『一段高い臥だいがあって(そこで天上の処女妻たちと歓をまじえる)。
我ら(アッラー)が特に新しく創っておいたもの、この女たちは(地上の女のように両親から生まれたものでなく、この目的のために特別に新しく創った女である)。
特に作った処女ばかり。愛情こまやかに、年齢も頃合い』
(『コーラン』(下)56章34~37節)
(*コーランについては、「コーランとは?日本人が知らない真実」をお読みください。)
しかもコーランには、同じような内容が表現を変えて何度も出てくるのです。
「美酒」が飲み放題、「天国の処女」と好きなだけ交われる‥‥。
天国に行けば美女が待っているのだから、生きている間はちょっとは節制しなさいと。
「馬の鼻先に人参をぶらさげる」みたいなものでしょうか。
イスラム流人生の楽しみ方

イスラム社会の人々は踊るのが大好き。結婚式は歌と踊りがメインで、この時は男性だけでなく女性も入れ替わり立ち替わり得意なダンスを披露する。
快楽とは、一定の節制があってこそ増すものです。
ウィークデーに仕事を頑張るからこそ、週末のレジャーが楽しくなる。
もし毎日が日曜日だったら、どうでしょう? レジャーも飽き飽きしてしまうのではないでしょうか。
ラマダン=一定期間食を断つことで、食事の美味しさが一段と増す。
セックス=「やりたいけど、できない」という期間があるからこそ、いざ夫婦になった時の喜びが倍増する。
欲望を心から楽しむためには、一定の節制が必要です。
いわば「人生のスパイス」と言えるでしょう。
節制は人を美しくもします。
いくら服装が自由でも、パンツが見えるようなミニスカートの女性は美しいでしょうか?
肌の露出をひかえめにすることで、女性らしい慎みや美しさが生まれると私は思っています。
一見禁欲的に見えるイスラムのルールと節制。
それは人生を賢く味う秘訣かもしれません。
【参考図書】
★「イスラム流幸せな生き方」
中学生でもわかるイスラム入門書。なぜ世界中でイスラム教徒が増え続けているか?がわかります。
20年間にわたり取材したイスラム女性たちのリアルな日常を紹介。モロッコ、チュニジア、エジプト、イラン、パキスタン、モルディブ‥‥。歌あり踊りありデートあり。「抑圧」などメディアによって作られたイメージと違う、生き生きした女性たちの実像を紹介します。
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