・ラマダンとは?なぜ断食するのか?
・次のラマダンはいつ?
・1ヶ月も絶食?ガリガリに痩せ細っちゃうんじゃない?
・水も飲めなくて大丈夫?
・ラマダン中の旅行は、やめた方がいい?
そんな疑問に答えます。
実は日本人が最も誤解していのが、ラマダンです。ラマダンは「お祭り」。イスラム教徒の全てが楽しみにしている、一年で最もスペシャルなイベントです。
「1ヶ月も断食して大丈夫か!?」「なぜそんな苦行を?」と思われるでしょう。
私も最初はそう思っていました。ところが!実際に現地に行くと、全く違うのです。
「ラマダンが大好き!」
「ラマダンは楽しい!」
皆が口をそろえて言います。心の底から目をキラキラさせながら。
ラマダンとは何か?1ヶ月ずっと絶食なのか?水は飲めないの?具合は悪くならない?
そこでここでは、日本人が知らないラマダンの真実を、わかりやすくご紹介。ラマダン中にイスラム圏へ旅行する方へのアドバイスもあります。
ラマダンとは?
ラマダンとは「月の名前」です。イスラム暦の「9」番目の月のこと。
(断食を指すわけではありません)。
ラマダン月中に、「あらゆる欲望を絶ち、心身を清めること」を求められます。これをアラビア語で「サウム」(日本語で「斎戒」)と言います。
絶つ欲望は、飲食、タバコ、性交、嘘をつくこと、人の悪口を言うことなどです。
つまり「断食」よりはるかに広い意味があるのです。
なぜ断食するのか?
ラマダン月は、コーランが最初に神から下された神聖な月。そこで祈りに集中するよう、「断食せよ」となったのです。
「ラマダーンの月こそは、人類の導きとして、また導きと(正邪の)識別の明証としてクルアーラが下された月である。それであなたがたの中、この月(家に)いる者は、この月中、斎戒しなければならない。
(途中略)これはあなたがたが定められた期間を全うして、導きに対し、アッラーを讃えるためで、恐らくあなたがたは感謝するであろう」
(コーラン第2章185節)
また飢えを体験することで、食べ物を与えてくれた神への感謝の気持ちを高める意図もあります。
食べ物に困るような貧しい人々への思いを致すことで、信者同士の連帯感も高まります。
このようにラマダンは集団的要素がとても強い宗教行事です。
ラマダンはいつ? 2021年以降のラマダンの日程は?
ラマダンなど宗教行事はイスラム暦(太陰暦)で決まります。
太陰暦は太陽暦よりも11 日くらい短いため、ラマダンの時期は毎年11日くらい前倒しになります。
2021年以降のラマダンの時期は次のとおりです。
2021年 4月13日~5月12日
2022年 4月2日~ 5月1日
2022年 4月2日~ 5月1日
ラマダンが冬に当たる年もあれば、夏に当たる年もあります。
ラマダンの期間は?月の始まりと終わりはどうやって決める?
細い新月が見えたら始まり、次の新月が見えたら終わりです。
新月の確認は宗教者などが肉眼で確認し、テレビや新聞で伝えます。
たいてい前日くらいにならないと、わかりません。
明日からラマダンだと思っていたら、天気が悪くて新月が確認できず、1日伸びたりということもあります。
そこでラマダンの前後は、皆がソワソワして「明日はラマダン?」「明日で終わり?」とたずねあうことになります。
ラマダン明けの祭り「イード」
ラマダンが開けると、「イード」というお祭りがあります。
まず朝モスクに行き、集団礼拝を行います。そして新調した服を着て、親戚や友人を訪問し合い、1ヶ月断食をやり終えた喜びを分かち合います。
ラマダン中の食事や生活

エジプトの家庭のイフタールの風景。ラマダン中はしばしば家族や親戚が集まってイフタールを食べる。
1ヶ月ずっと絶食?
食べないのは日中だけ。日没後は食べることができます。
断食する時間は?
断食するのは「ファジル(夜明け)の礼拝」から「マグリブ(日没時)の礼拝」までです。
ファジルの礼拝前(午前3時くらい)に「サフール(断食前食事)」を食べ、そのあと断食に入ります。
サフールで食べるのは、フールという煮豆やヨーグルトなど軽いものです。
そしてマグレブの礼拝が終わったら、「イフタール(日没後の食事)」を食べます。それから次のサフールの時間までは飲食自由です。
日中断食するのは大変ですが、つらいのは最初の2、3日だけで、それを過ぎると体が慣れてきます。
水も飲めない?大丈夫?
むしろ大変なのは、水が飲めないことです。今はエアコンがありますから昔に比べれば楽ですが、それでもつらい。
そのため断食前にたっぷりと水分を取ります。家庭の主婦は、日中は汗をかかないよう掃除や洗濯はひかえたりもします。
エジプトの砂漠で暮らす遊牧民と一緒に断食したことがあります。季節は夏。
中東の夏は日中の気温が40℃を超えることもあります。そんな中でも水を飲むことはできません。しかも日が長いから、断食時間も長い。
昼間はずっと日陰に座って、水でぬらしたタオルを顔や手足にあてて、暑さを和らげました。
ただ本当に具合が悪い時は、水を飲んでもよいことになっています。
後で埋め合わせすればいいのです。
実際、ある年のラマダン月が例年にない猛暑だったため「外で力仕事をする人は水を飲んで良い」というファトワー(権威ある法学者の意見)が出されたことがあるそうです。
このように状況に応じて判断し、必要な時は柔軟に対処するのがイスラム法の基本姿勢。
イスラムは中庸を旨とするので、命の危険を犯してまで断食を推奨する発想はないのです。
これが7世紀からこれまで生命を保ち続けてきた理由の1つでもあるでしょう。
(参考:イスラム教のルールは厳しい?その教えは人にやさしく合理的。)
ラマダンで太る人も!
実はラマダン中に太る人が多いのです。昼間断食しているので、夜は豪勢な物を食べたいというのは当然の真理。毎日が宴会のようなものです。
実際エジプトでは、この月の食費は他の月より50%から100%増えると言います。
ラマダン中は昼夜逆転の生活になりがちです。断食明けの食事をとった後は、だいたい夜通し起きています。
そして友人知人宅を訪問し、そこで砂糖たっぷりの紅茶とケーキやクッキーなどでもてなされる。
太るのは当然です。若い女性の間では、ラマダン月にいかに体重増加を防ぐかが関心の的だったりします。
断食を免除される人
断食をしなくて良い人もいます。病人や老人、妊婦、生理中の女性、10歳以下の子ども、旅人、交戦中の兵士などです。
ただし老人を除いて、断食ができる状態になったら、しなかった分の埋め合わせをします。
断食中に気分悪くなる人もいて、我慢できない場合は、病人ということで免除してもらいます。
「病気にかかっている者、または旅路にある者は、後の日に、同じ日数を(斎戒する)。アッラーはあなたがたに易きを求め、困難を求めない。」
(コーラン第2章185節)
ラマダンはお祭り。昼間は斎戒、夜は祝祭の時

ラマダン中のイスラミックカイロの情景。イフタールの後は明け方まで町が賑わっている。
ラマダンは1年のうちの最大行事。お正月みたいなものです。
特別イベントやセールが目白押し。テレビでも特別番組が放映され、町のあちこちに臨時遊園地が設置されます。
日没後、町はランタンの灯りに照らされ、真夜中をすぎても買い物やカフェのおしゃべりを楽しむ人でごった返します。
とりわけ楽しみなのが、日没後の食事「イフタール」です。先ほど書いたように毎日が宴会です。
こうしてラマダンの終わりが近づくと、誰もが「ラマダンがもっと続いてくれないかな‥‥」と思うのです。
ラマダンの特別なお菓子も
ラマダン中には、各国で特別なお菓子が売り出されます。
エジプトではクナーファやアターイフといった甘いお菓子を作って売る屋台が出て、カラフルな天幕で飾られます。
また「タマル・ヒンディー」(タマリンド・ジュース)、アルウース(甘草ジュース)、カマルッディーン(アプリコットジュース)など、ラマダンならではの飲み物もあります。
各家庭では、断食明けの祭りイードのために、「カハク」というお菓子を手作りします。
ラマダン中の旅行の注意
ラマダン中の旅行は全く問題ありません。
むしろイスラムらしい、楽しい経験ができるでしょう。
ただし、あらかじめ知っておいた方が良いことがあげます。
●レストランはほとんど閉まる
ほとんどのレストランは日中閉まります。テイクアウトだけに対応する店もあります。
スーパーなどで食材を買ってホテルで食べることができます。
ただラマダン中は異教徒であっても人前での飲食はひかえましょう。
●夕食は食べ損ねないように
日中閉まっていたレストランも、イフタールの時間に開きます。そして皆が一斉に食事をします。
ですから食べるものがすぐになくなってしまいます。
うっかり出遅れると食べるものがない!ということにもなるので、気をつけましょう。
●役所や博物館などは早めに終わる
労働時間の短縮で、公的機関や商業施設が通常より早く閉まります。
博物館などは通常より早めの時間に閉館になるところも多いです。
●お酒が飲めない
モロッコやエジプトなどイスラム圏には酒店があったり、お酒が飲める店があります。
しかしそれもラマダン中は営業中止。外国人向けのホテルのバーなどもお酒はありません。
●喧嘩や交通事故が増える傾向が
町中では空腹のために喧嘩が増え、交通事故も多い傾向が。
特にイフタールが近づくと、家路に急ぐためにスピードを出すドライバーが増えます。
ラマダンならではの楽しみ
ラマダン期間中は、旅行者にとって不便なことが多いですが、イスラム教の国にいることを体感できる、またとない機会です。
日暮れ時が近づくと、町から徐々に人が姿を消していきます。ふだんはすれ違いの家族も、ラマダン中は家族揃って断食明けの食事(イフタール)を囲みます。それに間に合うように、家路を急ぐのです。
バスや車は猛スピードで町を走り、タクシーがなかなかつかまりません。
断食明けの30分前にもなると、町はゴーストタウンと化します。そんな中で、時々猛スピードで走って行く車があります。「イフタールに間に合わない!」と焦っているのです。
そして断食明けの時刻になると、町に人っ子ひとりいなくなってしまいます。
ラマダン中こそ、イスラム圏にいることをひしひしと実感できる時期は他にありません。
イスラムの人々の暮らしが「宗教」を中心に回っているということが実感できるでしょう。
豊かな人が供する「神の食卓」
イスラム圏の国々では、モスク前や町のあちこちで「神の食卓」が用意されます。
これは裕福な人がイフタールを無料で提供するもので、誰でも食事することができる。旅行者であってもウェルカムです。私も何度もいただいたことがあります。
多勢の人とテーブルを囲む高揚感。
(ああ、みんなで食べるっていいなあ)と思います。
イフタール後1、2時間もすると、町は徐々に活気を取り戻していきます。これからが祭りの本番だ。食べたら遊ぶのです。
ラマダンを体験するのにおすすめの国は?
ずばり、エジプト・カイロです。カイロの旧市街の「イスラミックカイロ」はとりわけ華やいだ雰囲気につつまれます。
宗教歌手がコンサートを行っていたり、縁日のような出店が出て、輪投げや射撃ゲームを楽しむ子どもたちの歓声が響きます。
イスラム地区の中心にあるフセイン・モスク前の広場では、カフェで夜通し歓談を楽しむ人で賑わいます。
老舗カフェ「フィシャーウィ」があり、断食明けの時刻以降は、座る場所がないほどです。
イスラム教のラマダンについて知りたい方の参考になったら嬉しいです。
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