2023-08-01

イラン女性たちのリアル *『季刊アラブ』に掲載

イラン女性 Iran people iran woman

「イランの豊かさと女子力」と題して、雑誌季刊[アラブ」(2023年春号)に原稿を書きました。ちなみにこの号は、「イランとサウジアラビアの関係正常化」というホットな話題がテーマです。

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イラン人はよく見ず知らずの外国人を自宅に招く。夜10時に道を歩いていて、「こんな夜遅くどこにいく?よかったらうちに来なさい」と家族連れに声をかけられたこともある。たまたま道を聞いた男性にいきなり「俺の奥さんの手料理は最高なんだ、食べに来い」と言われ、断りきれずにおじゃましたこともある。

もちろんちゃんと相手の素性や安全を確かめた上でのこと。こうして現地のご家庭に滞在した数は30軒は下らない。イラン人はどんな暮らしをしているのだろう?

イラン人 Iran people

親戚が集まってのパーティで音楽に合わせて踊る。

まず驚くのがリビングの広さだ。20畳くらいは当たり前。これはお金持ちに限らない。休日には親戚や友人が集まり、ここでパーティを開く。床には美しい絨毯がいくつも敷き詰められ、床に座ってくつろぐ。必ずしも豪華な応接セットは必要ない。

しかし冷蔵庫は2つある。しばしば突然の来客があり、そんな時は夜中でも食事を作って出す。そのために食材を常備しておくのだ。人をもてなすことこそ、イラン人にとって至上の喜びである。食事の時は絨毯の上にソフレという布をひろげ、その上に料理を並べる。この食事スタイルも、突然の来客にとても便利だ。人数がいくら増えても対応できる。

家庭でよく作る料理が、アーブグーシュトという肉やジャガイモなどの煮込みだ。この調理の際もイランの豊かさをかいま見ることになる。煮込み時間が数時間に及ぶことも多い。煮込めば煮込むほど美味しくなると信じているかのようだ。「ガス代がもったいない」などとは思わない。ある職業婦人は、朝仕事に出かける前にアーブグーシュトの仕込みをして火にかけ、帰ってくるまでそのままだった。

イラン人 Iran people

家庭での夕食風景。

イラン人の二極化

イランの人々を理解するポイントは「二極化」だ。「イラン人は二種類いる。ヨーロッパ的な考えの人と過激なイスラム主義者」とイラン人はよく口にする。欧米に憧れ、欧米のライフスタイルを取り入れて暮らす人と、宗教熱心でお祈りを欠かさない人。中庸な人は10%くらいだそうだ。

イランの国教であるイスラーム・ シーア派の宗教行事アーシューラーの日には、第3代イマームホセインの非業の死を悼んで黒い服に身を包み、胸打ちの儀式シーネザーニーに熱心に参加する人が大勢いる。一方で「なんであんなことするのか、全く理解できない」とつぶやく人もいる。

イラン人 Iran people アーシューラーアーシューラーでの宗教行事に参加する女性たち。

女性の服装についても、スカーフを疎ましく思う人もいれば、チャードルを好んで身につける人もいる。とはいっても今は宗教都市コムなどをのぞけば、チャードル姿の女性は少数派。多くの女性はお尻がかくれる丈のコートとジーパンなどを着用している。スカーフは前髪を見せるように、ふんわりとかぶる。これは地域や宗派を問わない。

チャードルは女性の自由を奪うように見られがちだが、そうとも限らない。タブリーズのバーザールを歩いている時、喫茶店の外のテーブル席で談笑する男たちの横を、すーっとチャードル姿の女性が通りかかった。彼女が手を差し出し、何人かの男性たちはお金を渡していた。チャードル姿の女性に男たちは弱い。

店のレジでチャードル姿のおばさんが割り込んできても、周りの男性は決して文句を言わない。毎日同じ服でもチャードルを着てしまえばわからない。チャードルなしでは生きづらい女性もたくさんいるだろう。

イラン人礼拝 Iran people礼拝をする女性。

女子力高めなイラン女性

イラン女性は起きたらまず化粧をする。とはいっても化粧に費やす時間は2、3分だ。元々の顔立ちが彫りが深く美しいがゆえに、少し手を加えるだけで女優のようになる。「イランではスカーフをしなければならないでしょ。外に出るのは顔だけ。だからみんな必死で顔を化粧するの」と、アイドルのような顔立ちのダリア(19歳)。

彼女の趣味は空手で、空手大会に出場するために日本に行ったことがあるそうだ。「空手はいいわ。セルフディフェンスになるから。イランは日本みたいに平和じゃないのよ」。女性一人で歩いていると、男性が「お茶しない?」と話しかけてきてうるさいという。「その点、日本ではそんなことはないわ。日本人男性はとってもスマート」

彼女にはステディなボーイフレンドがいる。友人たちもすべて恋人がいて、二人だけで映画やカフェに行ったりして楽しんでいるそうだ。宗教警察のおとがめも以前ほどうるさくないという。大学はほとんどが男女共学で、大学で知り合って付き合うケースが多い。他にお付き合いのきっかけとしてはネットを通じて、通りを歩いていて声をかけられて、などがよくあるパターンだそうだ。

イラン人 Iran people
マシュハド郊外でのピクニック。

女性はおしゃれにも積極的だ。マシュハドの地下鉄に乗っている時、目の覚めるような真っ青なガウンを着た女性にいきなり声をかけられたことがある。私の着ているシャツを指差して「そのシャツどこで買ったの?」と。こういうのは特に珍しいことではないらしい。4歳の娘の母親マリアム(42歳)は、家の中ではいつもお尻の部分が丸く空いたスパッツをはいている。穴から下着が丸見えで、女の私ですら目のやり場に困ってしまう。

イスラーム圏では未婚女性の一人暮らしは一般的ではないが、イランでは意外に多い。大学に籍を置きながら英語学校を経営するナグマ (30歳)は、近々大学の寮を出て、アパートを借りて住むつもりだという。「そんなことできるの?」ときくと、「あなた、西欧のメディアに洗脳されてるわね。できるにきまってるじゃない。結婚しないで住んでる男女もたくさんいるわよ」。もちろんこういうのは場所によりけりだ。テヘラン、シーラーズ、サナンダージ、ラシュトあたりは比較的自由だという。

女性の社会進出については、「最近の男性は妻に働く女性を好むのよ」という意見も聞く。「その方が社交性や社会性があるだろうと思われるから。教育を受けている女性の方が良いパートナーになれると最近の男性は思うのよ」。結婚して仕事をやめろという男はいないのか? ホラマバードに住むパリサン(19歳)によれば、「村とかすごく田舎に行けば、そういう古くさいことを言う人もいるみたいだけど、町ではそんな人はあまりいないわ」。

イラン女性は不幸?

こう書いてくると、まるでイラン女性は日本や欧米と全く変わらない暮らしをしているようだが、もちろん保守的な層は存在する。結婚についても「相手は親が決めた人」という人も。

シーラーズのファリバ(34歳)は、結婚前に40人と見合いした。「両親がストリートで知り合った相手との結婚を望まなかったから」。そしてついに今の夫に一目惚れ。「彼は私のタイプだったの」と目をうるませる。

「彼に会った時に、なんでも正直に話したわ」。「じゃ、それまでにお見合いした人数も話したの?」と私が意地悪くたずねると、うふふと笑い「もちろん、そんなことは話さないわよ」。

イラン人 Iran people

「結婚相手は絶対に処女」という男性も健在だ。相手の処女性をスペシャルドクターにチェックしてもらうこともある。あるタブリーズのある男性曰く、その割合はテヘランで80%、タブリーズで95%だそうだが、真偽のほどはわからない。彼自身は気にならなかったが、姉と母親が気にしてドクターのところへつれて行ったそうだ。

娘がカナダに留学しているという女性は、「娘には戻ってこなくていいって言ってるわ。カナダにいた方が彼女のためだもの。カナダの男性と結婚したっていいわ」と言う。「イランでは結婚した女性は、夫が働くなといえば、働くことができない。外国へ一人で行くには、夫の許可が必要だし」。

このように男女双方の口から「イランでは女性は不幸だ」と聞くことがある。しかしその口ぶりはさほど深刻そうには見えない。私の勝手な印象だが、女性の自由度や生活の満足度を比べたら日本と大差ないかもしれない。

たしかに女性の一人旅などはポピュラーではないが、たいていの女性は「夫やファミリーと一緒の方が楽しいから」と言う。「夫が妻を一人で海外に行かせないのは、イラン女性はみんな美しく魅力的な女だから。他の男と関係を持つんじゃないかってヤキモチやくからよ」とナザニン(20歳)。舞台女優のような美貌の彼女が言うと妙な説得力がある。さらに続ける。「それに一人で旅行したら、誰が私の荷物持つわけ?」。

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