私は主にイスラム圏(イスラム教徒が多く暮らす国や地域)を取材しています。現地の暮らしを調査・取材し、写真展や本で発表しています。
「イスラム圏」「イスラム社会」と聞くと、どんなイメージを持たれるでしょう?
きっと「戦争ばかりして危ない所」「とても怖い場所」ーそんなふうに思われるのではないでしょうか。
私も行く前は、そう思っていました。だから行く前はとても怖かったのです。
取材のテーマを探して世界を放浪
私が初めてイスラム圏と呼ばれる場所に行ったのは、もう20年くらい前です。その時、世界一周しようと思っていました。
当時、大学を卒業し、会社員をしていました。しかし今のような海外取材の仕事がしたいと思っていたのです。
ちょうどその頃、フリーランスのフォトジャーナリストの方々と接する機会がありました。そしてその仕事ぶりを身近に見ることができました。
彼らは皆、自分独自のテーマを持って取材していました。インドネシアの熱帯雨林で暮らす人、パレスチナの難民問題‥。
そんな彼らを見て、私も自分なりのテーマを持ちたいと思うようになりました。
でも何をテーマにしたらいいか、わからない。そこで、世界一周してみようと思ったのです。いろんな国を見ているうちに、テーマが見つかるんじゃないか、とない頭で考えたのです。
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まず初めに、タイという国に行きました。そしてそこから陸づたいで西へ移動することにしました。飛行機ではなく、バスや電車を使って。
その方が、時間もかかりますが、周りの風景もよく見えるし、人々と接する機会も多いと思ったからです。
タイからミャンマーに行き、そしてバングラデシュ、インド、スリランカ、パキスタン、トルコ‥。こうしてイスラムの国々に出会ったのです。
インドとスリランカはそれぞれヒンズー教と仏教の国ですが、その後のパキスタンからは、ずっとイスラム教の国が続きます。
パキスタン、イラン、トルコ、シリア、ヨルダン、エジプト‥。
温かなイスラムの人々
実際これらの国に行ってどうだったか?イメージしていたのと、全く違っていました。人々がとても温かいのです。
たとえば道に迷って、通りすがりの人に道をたずねます。すると、私に質問された人は、ただ口で説明するだけでなく、その場所までつれていってくれたりする。
喫茶店でお茶を飲んで、レジでお会計をしようとすると、店主が「お金はいらないよ」と言ってくれたりします。他の客がさりげなく払ってくれることもある。
さらに、知り合って少し話しただけで、「うちにきなさいよ」「泊まっていきなさい」と言われたりします。
私の方も、私も地元の人がどんな家に暮らしているのか?どんなものを食べているのか?興味がありますから、誘われればついていきます。
こうして、イランでも、シリアでも、パキスタンでも、たくさんの人の家に泊まりました。
知り合ったばかりの人について行って、危なくないのか?と思われるかもしれません。
「家にきなさいよ」と声をかけてくれるのは、たいていおばさんです。だから危ないということは、ほとんどありません。実際、危ない目にあったことは、一度もありません。
場数を踏んでいくうちに、この人は危ない・危なくないというのが、わかるようになってきます。
これはシリアのある村の村長さんの家です。この世界一周の旅で初めてシリアにいったとき、この村長さんの家に呼ばれました。
そしてその後、また2009年にもシリアを訪れ、その時も、この村長さんの家にお世話になりました。
その間15年の月日がたっていて、2回目に村長さんの家に呼ばれたときは、以前呼ばれたことを、すっかり忘れていたのです。でも村長さんは、しっかり私のことを覚えていてくれました。
このようにイスラム圏に暮らす人々は、イメージと全く違っていた。
「この現実を伝えたい」と思うようになりました。
イスラムをテーマにしようと。
エジプトでアラビア語を勉強
そこでエジプトにたどり着いた時に、ここに住んでアラビア語を勉強しようと思いました。
世界一周するつもりでしたが、テーマは見つかりました。そしてそろそろ旅にも飽きてくる頃でした。日本を出て10ヶ月くらい経っていました。
イスラム圏の多くの国は、アラビア語を話します。イランはペルシャ語、トルコはトルコ語ですが、アラビア半島の国々はアラビア語を話します。北アフリカのエジプト、チュニジア、モロッコ、スーダンなどもアラビア語です。
またイスラム教の聖典コーランは、アラビア語で書かれています。だからアラビア語を勉強しようと。
また人々の暮らしをテーマにしようと思っていました。ニュースやジャーナリスティックな出来事より、人の暮らしの方に興味があったんです。それならばなおさら、言葉が話せた方がいいと思いました。そこでエジプトのカイロで1年アラビア語を勉強することにしました。