2017-02-10

『雲の上はいつも青空』(ハービー山口)人を幸せにする写真集

シリアの親子

シリア人の親子。パン屋にパンを買いに来た。シリアの男性はよく家事をする。

見た人がほのぼのと温かい気持ちになってくれるといいな。写真を撮るようになってしばらくしてから、そう思うようになりました。

自分が写真を撮る意味ってなんだろう? そんなことを考えることがあります。こんなに写真があふれている時代に。名作と呼ばれる写真が多々ある時代に。

私は人を撮ることが多いのですが、今は人を撮るのが難しくなっていると言われます。「肖像権」うんぬんといったことが問題になったりもする。だから、せっかく撮らせていただくからには、撮られる人も楽しくなり、写真を見た人も楽しく前向きで温かな気持ちになる写真が撮りたいと思います。

シリアのカップル

ダマスカスのウマイヤドモスクで語り合う男女

写真を見たことで、その日1日良い気分でいてくれるような写真を。そうすれば、ささやかながら自分が世の中に役立つことにつながるのではないか?何かに悩んでいる人が、写真をちらっと見て「家族っていいな、人間っていいなあ」と少しでも思えるような写真。

「温かい」だけでいい?

こう思えるまでには、いろんなことを考えました。たとえば、もっとジャーナリスティックで、現実を写し取る写真でなければならないのではないか?とか。

上のようなシリアですが、写真を見た人の中には、こんなことを言う人もいます。「シリアは今深刻な状況だ。こんなのんきな写真を撮っていいのか?」「もっと切実な現実を伝える必要があるだろう」。

紛争シーン、その大変な状況に置かれて人々の写真。そういったことを社会に知らせることで、人々の意識を喚起する。その意義は大いにあるでしょう。

しかしそれは大手メディアの方が優れているかもしれません。人にはそれぞれの役割があると思います。私には他に撮るべき写真があるのではないか。身勝手な考え方ですが。

インドネシア放浪から

写真を撮るようになったきかっけは、大学時代のインドネシア一人旅です。大学まで全く友人がいない内気な人間でした。そんな自分をなんとかしたいと、インドネシアを放浪することにしたのです。

驚いたことに、行く先々で「うちにおいでよ」と声をかけられました。そうやって現地の人の家を何軒も泊まり歩く。こんなことができる自分に驚いたし、何より「世の中には、こんな親切で温かい人たちがいるのか」と衝撃を受けました。見ず知らずの人にまで、自分が丸ごと受け入れてもらえる。

それまでは人嫌いだったけれど、「人って捨てたもんじゃない、人生って楽しいこともあるんだな」と思えるようになった。そんな出来事が、「人の悪い面より良い面に光をあてる写真が撮りたい」という気持ちにつながっているのだと思います。

人が人を好きになる写真

「生きててよかった、人生捨てたもんじゃない」。見た人の誰かが、もしそう思ってくれたらいい。それには、紛争シーンより明るく温かい写真の方が合っているのではないか。

そういった写真を撮っていることで右に出る人がいないのが写真家のハービー・山口さんでしょう。

彼は年上の著名な写真家に、ご自分の写真についてこう言われたそうです。

「深刻ぶった写真が多い中、HAPPYだけをあのレベルで撮っている人なんて他に誰もいないじゃないか!HAPPYは人類の永遠のテーマたる!君は徹底的に人を幸せにする写真を撮ったらいい!

(「雲の上はいつも青空」)

ハービーさんにはまだまだ及びません。でも私もこんなふうに人の心に灯りをともす写真を撮り続けたい。「いやなことがあったけど、この写真を見たら、そんなこと忘れてしまった」そう思ってもらえるような。

【「雲の上はいつも青空」】
幸せの一瞬を切り撮る、やさしいモノクローム写真で多くのファンがいるハービー・山口さんの、心温まる珠玉のフォトエッセイ集。ハービーさんの写真には、その誠実で温かい人柄がそのまま表れていると思う。そんなことを、この本を読むと実感します。本の中で私がいちばん好きな一文。「人間が人間を好きになる。なんと素敵なことだろう。その一端でも担うことができたら写真家とは素晴らしい存在だと思う。」 巻末にはハービーさんが愛用しているカメラ、レンズ、撮影テクニックの紹介もあります。

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