ラマダン中の旅行の楽しみ

  日の出から日の入りまで一切の飲食を禁止するラマダン。イスラム教徒の義務として、年に一度イスラム暦(太陰暦)の九月に一ヶ月間行う。ただし断食するのは日の出から日没まで。日が暮れたら食べてもかまわない。

 ラマダン期間中レストランは閉まる。断食明けの時刻に開く店もあれば、閉まったままの店もある。博物館などは通常より早めの時間に閉館になるところも多い。ふだんお酒を出すレストランでも、基本的にラマダン中は出さない。酒屋も営業しない。このように、ラマダン期間中は、旅行者にとって不便なことも少なくない。

 一方でラマダン中だからこそ体験できることもある。日没の三十分前くらいになると、町に緊張が走る。バスや車は猛スピードで走り、タクシーがなかなかつかまらない。断食明けの食卓を家族と囲むために、誰もが一心不乱に家路を急ぐからだ。いよいよ断食が明けると通りには車がなくなり、人っ子一人いなくなる.。町が一瞬、廃墟になったかのようだ。これはなかなか壮観である。こんな時、宗教を中心に人々の暮らしが回っているという、イスラムの国にいる現実をしみじみと実感する。

 エジプトやヨルダン、パキスタンなど宗教熱心な国では、ラマダン中、モスク前や町のいたる所で「神の食卓」というものが設けられる。モスクや町の有力者が、貧しい人のために断食明けの食事を無料でふるまうもの。貧しい人に施しをすれば、死後天国へ行けるチャンスが増えるからだ。道行く人は誰でもこの席で食事できる。近くを通りかかれば、異教徒の私にも声がかかる。

 信者のほとんどはラマダンを心待ちにしている。ラマダン期間中はテレビの特別番組をやっていたり、町のあちこちに臨時遊園地が設置されたり、ラマダンセールがあったりと、楽しいことが目白押し。まさにお祭りだ。

 何より断食した後の食事はいっそうおいしい。これは極論すれば、結婚前に男女交際が禁止されていることにも通じる。結婚前に自由にセックスできなければ、結婚後はセックスが楽しくて楽しくて、セックスレスになっているヒマがない。イスラムとは人生を楽しむための教えだ。食事を楽しみたければ、時には食を断つ。夫婦生活を楽しむためには、結婚前は禁欲する。節制や禁欲なければ快楽なし。これらがイスラム流人生を楽しむポイントだ。

詳しくはこちらをお読みください。

女ひとり、イスラム旅 (朝日文庫)

error: Content is protected !!