カナダの小学校が教える「生きる力」

カナダの小学校を見学しました。マニトバ州の公立校1校、ブリティッシュ・コロンビア州の私立校1校です。決して一般化はできませんが、カナダの小学校は子どもの「生きる力」を育むことを大切にしているなと感じました。「人としての基礎的な力」とか「生きる上で大切なこと」とか言いかえてもいいかもしれません。
ネガティブな気もちのコントロール

公立校の4・5年生では、紙に書いた人体の上に、自分の心を楽しくするものごとを書く授業がありました。ネガティブな気持ちになってしまったとき、どうやってその気持ちをコントロールするかを学ぶ授業です。そんなときは自分が好きなこと・楽しいことを思いだすのです。
子どもたちはそれぞれ「自分の自転車」とか「家族でピクニックに出かけたときのこと」とか「好きなアニメ」とか、書いていました。
いつもちょっとしたことで落ち込んでしまう私にとっても、この思考法はとても有益だと思いました。人生でもっとも大切なことは人生を楽しむこと、そのために必要な心のもち方が、まさにこれです。このスキルを身につけたら、絶対に一生涯自分が生きる上での力になってくれるでしょう。こんな授業を小学生のうちから受けられるなんて、うらやましい!
新たな動物をクリエイト

子どもたちの創造性を育むことも、カナダの学校が力を入れていることの1つです。私立校7年生(カナダでは州によって、小学校が5年生までだったり、7年生だったりします)の科学の授業では、動物たちの生態を学んだ上で、数種の動物の特徴をかけ合わせて新しい動物をつくり出す授業がおこなわれていました。なかなか高度な内容です。でも、単なる暗記の授業より楽しそうです。(写真はサメと魚と昆虫が合体した昆虫。)
障害がある子もない子もともに学ぶ

日本では障害のあるお子さんは特殊学級で学びますが、カナダではいっしょです。それによって、社会には自分とは異なる人がいるということを幼いうちから学ぶのです。
クラスには担任の先生以外にも、アシスタントの先生がいて、障害のある子どもたちのケアに当たります。私が見学した公立校では、歩行に困難のある子どものための特別な自転車があり、毎日一定の時間、子どもたちを自転車に乗せて運動させていました。夏休みには、お子さんの家庭にこの自転車を貸し出したりもしています。
人として大切な価値観を学ぶ
私立校の3年生の国語の授業では、小説『The wild robot』を用いての授業をおこなっていました。これは先生が教材として選んだもので、小説の中に、他人を応援する心や夢をもつことなど、人として大切にしたい価値観が盛りこまれているからです。

『The wild robot』(『野生の島のロズ』)。作者はピーター・ブラウン。ロボットが無人島に漂流し、島の動物たちと心を通わせながら頑張って生きていくストーリー。
先生も創造的であること
カナダの小学校では教科書はありません。先生はリソースと呼ばれるウェブサイトの上の資料を用いたり、独自のプリントを使って授業をします。
時間割もしばしば変更になります。大きなニュースがあれば、それを話題にした授業をおこなうこともあります。オーロラを見たら、オーロラについて知るビデオを見たり、体験をシェアしたりします。ある意味、教師のオリジナリティや創造性が試されるーそれがカナダの学校です。
ほめ上手な先生たち

カナダの先生は、とにかく児童をほめるのが上手い。だれかが発表すれば、「おおーすごい!私ですら、そんな考えは思いつかなかったよ!」などと、ややおおげさともいえるほどにほめます。
その発言がたとえまちがいであっても、決して否定はしません。「そういう考えもありますね」でおわりです。こうして子どもたちの自尊心や自己への信頼が育っていくのでしょう。
移民の子どもの英語上達方
カナダでは多民族国家です。小学校も当然、多くの移民の子どもたちが入学してきます。英語のレベルもさまざま。入学時にまったく英語ができない児童もいます。
そのためにUFLIという言語法の授業のみ、児童の英語レベルに応じてクラスをわけて授業をおこないますが、それ以外は基本的に全員一緒に授業を受けます。
英語ができる子もそうでない子もともに学び、遊ぶことが、いちばんの英語上達法だと考えられているためです。
コンピューターより大切なこと
コンピューター関連の授業が少ないことも意外でした。カナダはIT国家というイメージがあり、コンピューターの授業が多いと勝手に想像していたからです。公立校ではコンピューターの授業はまったくなく、私立校では週のうち1時間だけ。
幼いうちは器用にコンピューターをあやつるより、もっと大切なことがあるということでしょうか。
私たちは日ごろ、コンピューターやスマートフォンに多くの時間を割かれてはいないでしょうか? IT機器からあえて距離を置き、人間らしさや思考力をやしなうことに重きを置いたカナダの学校は、「人にとって本当に大切なものは何か?」を私に気づかせてくれました。






