2014-10-31

ザカートとサダカ イスラム教の喜捨と助け合い精神

イスラムのザカート

イランでは路上に喜捨箱が用意されていて、道ゆく人が自発的に喜捨をしている。

イスラム教の喜捨って何ですか?

日本の「寄付」と違うんですか?

そんな疑問にお答えします。

この記事を書いている私は、イスラム入門書『イスラム流幸せな生き方など多数の本を出版しています。

ここではイスラム教の喜捨について、わかりやすく紹介します。

「ザカート」と「サダカ」とは?

イスラムのザカートとサダカ

パキスタン・カラチの食堂。この店では毎日無料で食事を提供していて、食事時になると大勢の人が店の前に集まる。

イスラムの喜捨には2種類あります。

義務の喜捨(ザカート) 

自発的な喜捨(サダカ

詳しく解説します。

①ザカート(義務の喜捨)

・六信五行の1つ

イスラム教徒には「六信五行」という基本的な義務あり、ザカートはその1つです。

1年間の収入のうち決まった割合を喜捨します。

(参考:六信五行とは?

・貧しい人にザカートの義務はある?

家族を食べさせるのがやっと、という人には義務はありません。

イスラムでは苦行を強いないからです。

②サダカ(自発的な喜捨)

義務ではなく、自発的な施しです。

路上にいる物乞いにお金を施したり、食事を提供したりすることです。

裕福な人がレストランにお金を渡し、店がそのお金で貧しい人へ食事を提供する、といったこともあります。これはパキスタンなどで盛んです。

カラチには「バーンズセンター」という火傷専門の病院があり、入院費、食費、薬代などはすべて無料。

市内には敬虔なビジネスマンが多く、それらの寄付でまかなわれています。これもサダカです。

パキスタンなどでは、中流以上の家庭ではメイドを雇うことが少なくありませんが、これも一種のサダカでしょう。

妻が専業主婦でメイドが必要ない家庭でも雇っていることが多い。

これは彼の国の習慣でもありますが、仕事を与えてあげることで、路上生活におちいってしまいそうな人を救っているとも言えます。
 

イスラムの喜捨の特徴

イスラムの結婚式

エジプトの結婚式は新婦の家の前などで行わレることが多い。これは周囲の人に2人が結婚することを伝え、姦通の間柄ではないことを知らしめる意味がある。結婚式は飛び入り参加が歓迎されている。

イスラムの喜捨と、その他の喜捨は何が違うのか?

「寄付」とは違う

ザカートの本来の意味は「浄め」です。施しをすることで、自分の罪が浄められる。

その根底にあるのは「この世のすべての物は神のもの」という思想です。

裕福な人は単に神から富を預かっているだけ。その中にはもともと貧しい人たちの権利が含まれている。それを喜捨によって返す、というわけです。

この点が「寄付」と違います。

物乞いは相手を「天国へ導く」存在

施しを受けた側は肩身が狭い思いをしがちですが、この点イスラムの喜捨は違います。

喜捨という善行をした側は、それによって、天国へ一歩近づけることになります。

実際コーランには「物乞いに施しをする人は天国へ入る」と何度も書かれています。

つまり受け取る側は、相手に「善行を与えるチャンス」を与えたということ。

相手を「天国へ導く存在」であり、むしろ「感謝される側」です。恥じる必要は全くありません。

 

堂々とした物乞いたち

実際、感謝される側である物乞いは、驚くほど堂々としていて、しばしば驚くことがあります。

エジプトなどではレストランで食事していると、少し小柄な男性(時には女性)がぶらりと入ってくることがあります。

そして店主から食事を受け取って出ていく。

あまりにも態度が自然なので最初はテイクアウト客かと思っていましたが、物乞いです。

                *

他に私が体験したものでは、こんな事例があります。

・結婚式の家に現れた物乞い女性

友人の結婚式当日、その家に集まって昼食をごちそうになっていました。

そのとき1人の女性がふらりと入ってきて、食事の席についたんです。そして他の人と一緒に食事をし、お茶を飲んで帰って行きました。

私はてっきり親戚か誰かと思っていたら、後で家の人に聞くと「物乞いだ」とのこと。

彼女のふるまいがあまりにも自然で堂々としていたので衝撃を受けました。

結婚式は物乞いにとって稼ぎ時です。

花嫁の母は物乞いに施しするという善行によって、神が娘の結婚生活を幸せにしてくれるよう願うことでしょう。

そのため物乞いはどこかで結婚式があると聞くと、そこへ向かうのです。

ちなみにこの物乞い女性は、友人が住む町の隣に住んでおり、物乞いのためにしばしばミニバスに乗って友人の町にやってきていたとのこと。

こうなると完全にビジネスです。

 

・イランのホテルに現れた物乞い女性 

外出先からホテルに戻ると、ロビー横のレストランでチャドル姿の女性が食事をしていました。

従業員が女性を指差して、私に言いました。「この女性を助けてやってくれ」。

つまり「お金を渡してやってくれ」ということ。彼女は物乞いで、食事はホテルの「施し」だったのです。

従業員に言われたので、私はしかたなく少しお金を渡しましたが、当然お礼を言われるものと思っていたら、彼女は額に不服だったようでムッとしていました。

彼女はよくそのホテルに出入りし、お客から金銭を受け取っているそうです。

とにかくその女性の「もらって当然」の態度に、「貧しいことは恥ずべきことではない」と目からウロコが落ちました。

(「イスラム流幸せな生き方」)

社会に浸透した「助け合い」文化

喜捨が宗教的義務とされているイスラム社会では、人と人との「助け合い」精神が行き渡っているのを感じます。

困った人が助けを求めやすく、求められた人は進んで助けることが習慣化しているのです。

モロッコの友人の母親は、長らくガンを患っていました。

向こうでは健康保険などありませんから、庶民にとってガンの治療費は高額です。

そのため近所の人がお金を出し合い、その治療費の一部を負担していました。

                  *

サウジアラビアのジェッダで、道に迷って通りかかった人に道案内してもらった時のこと。

向こうから男性が歩いてきました。彼は、私を案内してくれている男性に話かけます。

すると案内人はポケットからお札を取り出して、その男性にあげていました。

男性が「お金に困っているので、恵んでくれないか」と言ったのでしょう。

驚くのは、お金を要求した男性が貧しそうに見えなかったことです。

それ以前に、道ですれ違っただけの相手に「金くれ」と言える神経にも驚きましたし、言われてすぐさまお金を渡す行為にも本当にびっくりした。

        *

そしてエジプト。

タクシーに乗ったら、運転手が悲しそうな顔で話し出します。

「私の母が深刻な病気で入院しています。莫大な医療費がかかる。どうか助けてください」

医者の診断書のようなものを見せられました。

顧客にそんな要求ができることに驚きました。

               *

「困ったのも神の仕業。自分のせいではない」とイスラムでは考えます。

都合の良いと言えば都合が良い考えですが、こうすれば自分を責めずにすみます。

こういった事情から、助けを求めるのは、それほど恥ではないのです。

 

さいごに:自分に与えてくれた物乞い

これは読売新聞カイロ支局長をしていた北村文夫さんに聞いた話です。

当時住んでいたカイロの自宅近くに、路上生活者の男性が暮らしていたそうです。

彼には両足がなく、車のついた台に乗って、いつもその路地を移動していました。

北村さんは、通りがかりにいつも彼に30円ほどを与えていたそうです。

ところがある日、大きなお金しか持ち合わせがなかった。

それで男性に「今日、私は貧乏だ(だから、与えられるお金はない)」といったそうです。

すると彼は胸に手を当て、「あなたにアッラーの思し召しがありますように」といい、北村さんに、タバコを3本くれたそうです。

自分がたとえ裕福でなくても、自分より貧しい人がいれば、当然のように与える。

路上で生活するその男性は、「持てる者が持たざる者に与える」というイスラムの理念を、ごく当たり前のように実践したのでした。

 

「働かざるもの食うべからず」という言葉が日本にはあります。

「稼ぐ者が偉い」といった風潮も。

しかし自分のせいでなく、どうしようもなく貧困状態に陥ってしまう人もいます。

そういう人が責められず堂々といられるとしたら、この方が生きやすい社会と言えるかもしれません。

乞食とイスラーム
クウェートやサウジアラビアをはじめとするイスラム世界の物乞いについて書かれた本。出版時期はやや古いものの、歴史上の乞食たちから現代の乞食の王まで乞食の様々な姿からイスラムを読み解く非常に興味深い内容が詰まった本である。

 

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