「毎日ウィークリー」9月8日号に、2003年から取材を続けているエジプトの遊牧民女性サイーダの記事を掲載していただきました。
かなり大きな記事です(左下のペンに注目)。
彼女サイーダは、たった1人でラクダ7頭とともに砂漠を移動しながら暮らしています。
誌面の本文は英語ですが、ご覧になれない方のために日本語で本文を紹介します。
砂漠の移動生活
エジプトの砂漠で一人で遊牧生活を送る女性サイーダ(71才)。私は2003年以来、彼女と毎年一定期間ともに暮らしながら取材している。
場所はナイル川の東にある東方砂漠。カイロから四〇〇キロ離れた所で、彼女はラクダ7頭を連れ、移動しながら暮らしている。
彼女が属するホシュマン族は人口1000人ほど。1997年以来、この辺りには雨らしい雨が降らないため、ほとんどの人が遊牧をやめて砂漠の中にある定住地に移り住んだ。
今でも遊牧を続けているのは、サイーダだけだ。9人の子ども達は、すべて砂漠で一人で生んだ。足を痛めた夫と子ども達は、町や定住地に暮らす。
家族や親戚は一緒に暮らそうと誘うが、彼女は好きな砂漠の暮らしを捨てるつもりはない。
草がある場所を求めて移動しながら暮らす。荷物はラクダ1頭に積みきれるだけ。泉の水を飲み、燃料には砂漠にある枯木を使う。
夜は月明かりでパンを焼き、満点の星の下で眠にりつく。食べるものは毎日パンと紅茶。野菜や果物などは、ごくたまに手に入るだけだ。
生まれた時から家に住んだことがない。テントも持たない。移動の際に荷物が増えてしまうためと、寝るときに星が見えないのが嫌だからだという。「荷物が少ないから、いつでも好きな時に好きな場所に行ける」が口ぐせだ。
失われつつある知恵
今は遊牧民の多くが携帯を持つが、サイーダは持つつもりはない。「以前は友人知人の家をよく訪ね合ったものだよ。今は携帯ですぐに声が聞けるから、隣に住んでいても訪ねない。昔は離れていても心は近かったが、今は近くにいても心は遠い」。
彼女に会うには、砂漠に残された足跡をたどって行く。足跡はしばしば風で消されてしまうため、その日のうちに居場所がわからず、砂漠で一晩過ごしたこともある
遊牧民は足跡を見分ける能力に長けている。自分の留守の間に荷物が取られても、残された足跡で誰がかわかる。もしもその人が靴を変えても、歩幅や足の微妙な向きなどで、その人だとわかるという。
砂に残された無数の車のタイヤの跡から、求める車の跡を見つける。動物の足跡を見て、自分の家畜かそうでないか、オスかメスか、その年齢、何日前に付けられたかなども言い当てる。
星やその位置によって季節の移り変わりを知り、月の満ち欠けで日にちを知る。体の不調は砂漠に生える植物を薬草として煎じて飲んで治してきた。
下痢をともなう腹痛の時には、7つの石を7つのラクダの糞といっしょに燃えている枯木の下に置いて十分熱し、それらを水の中にいれて飲む。こうすると、すっきりと治るという。
近年、ほとんどの遊牧民が定住地で観光客相手の仕事をするようになり、そこで育つ子ども達はこういった知識を知らない。自然を相手に培ってきた遊牧民の知恵も、徐々に失われつつある。
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