彼女には幼い頃からの夢があった。
小説家として、自分の物語を書くということ。
そこで大学を卒業して出版社に入った。
小説を書くには、まずは出版界に身を置くことが近道だと思ったから。
書く・読むことが何より好きだったから。
20代後半に独立し、フリーのライターになった。
真面目な腕の良い彼女には、とぎれることなく仕事が入ってきた。
心の中にはいつも小説のことがあったけれど、
勝手に「今はまだその時期じゃない」と思っていた。
自分はまだ若い。時間はまだまだたっぷりある。
もう少しライターとして修行してから小説を書こう。
結婚し、2人の子どもに恵まれた。
仕事、子育て・・忙しくも充実していた。
小説は、子供達が手を離れる50代くらいで書こうと思っていた。
漠然と70歳くらいまで生きると思っていた。
そんな日々の中で、体の中に少しずつ「異変」が芽を出しつつあった。
ある日ガンが見つかった。それは、もう手遅れなくらい進行していた。
50歳。死の淵で初めて思った。
「自分がこんなに早く死ぬとは思わなかった」。
私の友人の話です。
亡くなった後、彼女の本棚には「小説を書くには」「小説家になるには」のような本が何冊も残されていた。
いつか小説を書きたいと思っていたから。
でもそのいつかは訪れなかった。
子供に恵まれ、良い仕事もたくさんした。
でも一番にしたいことはできなかった。
自分の物語を書くこと。小説を書くこと。
幼い頃から夢見ていたことだった。
目の前のやるべきことにかまけていると、なんとなく人生が充実しているように見える。
「本当にやりたいこと」から目を背けることができる。
でも、そんなとき、立ち止まって考えてみては?
「今やっていることは、果たしてやらなければいけないこと?」
「自分が本当にやりたいこと?」
時には、じっくり考えてみたい。
「私が本当にやりたいことって何だろう?」
それがわかったら「いつか、やろう」ではなく、今すぐにでも始めなければ。