2019-08-30

イスラムの断食ラマダンとは?

ラマダン イスラム教のラマダン

イランのラマダン風景。断食明けには家族や親戚と揃って食事する。

イスラム教徒はラマダンの1ヶ月間、断食をします。

「ラマダンとは何なのか?」「なぜ断食するのか?」「1ヶ月も絶食したらガリガリに痩せ細ってしまうのでは?」‥そんな疑問にお答えします。

ラマダンとは?

ラマダンとは「イスラム暦の9番目の月名」のことです。(断食のことではありません。)

この月の間、「あらゆる欲望を絶ち、心身を清める」ことが求められます。

この欲望を断つことをアラビア語で「サウム(「斎戒」)」と言い、飲食だけでなく、タバコ、性交、嘘をつくこと、人の悪口を言うことなども含まれます。つまり「断食」よりはるかに広い意味があるのです。

なぜ断食するのか?

ではなぜ「断食(斎戒)」が求められるのでしょう?

コーランに「ラマダン月にコーランが最初に神から下されたこと、そのため(祈りに集中するよう)斎戒せよ、と書かれているからです。

「ラマダーンの月こそは、人類の導きとして、また導きと(正邪の)識別の明証としてクルアーンが下された月である。それであなたがたの中、この月(家に)いる者は、この月中、斎戒しなければならない。‥これはあなたがたが定められた期間を全うして、導きに対し、アッラーを讃えるためで、恐らくあなたがたは感謝するであろう」(2:185)

また飢えを体験することで、食べ物を与えてくれた神への感謝の気持ちを高める意味もあります。貧しい人々への思いを致すことで、信者同士の連帯感も高まります。

ラマダンは神聖な月であるため、人々の宗教心が高まります。多くのムスリムはコーランを毎日30分の1ずつ読み、1ヶ月で全体を通読することを心がけます。

いつもはスカーフをかぶらない女性が、この月だけは髪を覆い、ゆったりとしたラインの服を着るようにもなります。貧しい人たちへの慈善活動も盛んになります

ラマダンはいつ? 2021年以降のラマダンの日程は?

イスラームでは宗教行事はイスラム暦(太陰暦)で決まります。太陰暦は太陽暦よりも11 日くらい短いため、ラマダンの時期は毎年11日くらい前倒しになります。

2024年以降のラマダンの時期は次のとおりです。

 2024年 311日~

 2025年 3月1日~

 2026年 2月18日~ 

ラマダン中は食事はもちろん水も飲めない。だから夏は大変です。でもしばらくは過ごしやすい時期なので、助かります。

ラマダン月の始まりと終わりはどうやって決める?

ラマダン月の始まりと終わりは新月の確認で決まります。細い新月が見えたら始まり、次の新月が見えたら終わり。

新月の確認は宗教者などが肉眼で確認し、テレビや新聞で伝えます。たいていは前日くらいにならないと、わかりません。

明日からラマダンだと思っていたら、天気が悪くて新月が確認できず、1日伸びたりということもあります。そこでラマダンの前後は、皆がソワソワして「明日はラマダン?」「明日で終わり?」とたずねあうことになります。

ラマダン中の食事や生活

断食する時間

断食する時間は「ファジル(夜明け)」の礼拝のアザーンが聞こえてから、「マグリブ(日没時)」の礼拝のアザーンが聞こえるまでです。

ファジルの礼拝前(午前3時くらい)に「サフール(断食前食事)」を食べます。、そのあと断食に入ります。たいていはフールという煮豆やヨーグルトなど軽いものです。それから断食に入ります。

そしてマグレブの礼拝を終えると「イフタール(日没後の食事)」を食べます。それから次のサフールの時間までは飲食自由です。
日中断食するのは大変ですが、つらいのは最初の2、3日だけで、それを過ぎると体が慣れてきます。

水も飲めない?

断食中は水も飲めません。そのため断食前にたっぷり水分を取ります。家庭の主婦は、日中は汗をかかないよう掃除や洗濯はひかえたりもします。

エジプトの砂漠で暮らす遊牧民と、夏に一緒に断食したことがあります。中東の夏は日中の気温が40℃を超えることもあります。そんな中でも水を飲むことはできません。しかも日が長いから、断食時間も長い。昼間はずっと日陰に座って、水でぬらしたタオルを顔や手足にあてて、暑さを和らげました。

ただ本当に具合が悪い時は、水を飲んでもよいことになっています。そのぶん後で埋め合わせします。

これ以外にも、断食すべきかどうかを臨機応変に対応されることもあります。ある年のラマダン月が例年にない猛暑だったため「外で力仕事をする人は水を飲んで良い」というファトワー(権威ある法学者の意見)が出されたこともあります。

イスラムは中庸を旨とし、命の危険を犯してまで断食を推奨する発想はないのです。(→イスラム教のルールは厳しい?その教えは人にやさしく合理的。

ラマダンで太る人も!

ラマダン中に太る人が多いのです。ラマダン中は、普段より豪華な料理が食卓に並びます。毎日が宴会のようなもの。実際エジプトなどでは、この月の食費は他の月より50%から100%増えるそうです。

またラマダン中は昼夜逆転の生活になりがちです。イフタールを食べた後、ほとんどの人は夜通し起きています。そして友人知人宅を訪問し、そこで砂糖たっぷりの紅茶やケーキやクッキーなどをいただくことに‥。

若い女性の間では、ラマダン月にいかに体重増加を防ぐかが関心の的だったりするのです。

断食を免除される人

病人、旅行中の人、子供、老人、身体虚弱者、戦場の兵士、妊産婦、授乳している母親、生理中の女性は断食を免除されます。

ただし老人を除いて、断食ができるようになったら、断食できなかった日数分の断食を行います。それでも断食できなかったら、貧しい人に施しをすれば良いことになっています。(「コーラン」2:184~185)

旅行かどうかは、旅の日数と移動の距離で決まります。数日しか滞在せずに国を移動する場合は断食の義務はなく、10日以上同じ国にいる場合は断食をしなければいけないことになっています。

また同じ国の中でも21km以上離れいている町に移動すれば、それは旅行とみなされて、9日以内の滞在なら断食は免除です。

ラマダンは家族のつながりを深める月

エジプトのラマダン エジプトの食卓

エジプトの家庭のイフタールの風景。ラマダン中はしばしば家族や親戚が集まってイフタールを食べる。


断食明けの食事イフタールは家族や友人など大勢の人と食べるのが良いとされ、ふだんすれ違いの家族もかならず食事をともにします。イフタールは1日の断食のつとめを守ったことを神に感謝し、喜びを分かち合うものだからです。

これはイスラム圏どこでも同じ。ラマダン月の夜は家族や友人が集まる時で、イフタールは親しい人々とともに華やいだ雰囲気の中でとるものです。

またイフタールを他人にふるまうと、アッラーからの祝福(バラカ)がいただけるとされ、イフタールの食事会には非イスラム教徒を招くこともあります。

ラマダンはお祭り

ラマダン ラマダン明けの食事

ラマダン中のイスラミックカイロの情景。イフタールの後は明け方まで町が賑わっている。

ラマダンの夜の街はランタンの灯りに照らされ、真夜中をすぎても買い物やカフェのおしゃべりを楽しむ人でごった返しています。

またラマダン中は特別イベントやセールが目白押し。テレビでも特別番組が放映され、町のあちこちに臨時遊園地が設置されます。まさにお祭りです。ラマダンときくと、日本人の私たちは「さぞかし苦行ではないか」と思いますが、実際には全く違うのです。誰もが「ラマダンが大好き!」「ラマダンは楽しい!」と言います。

そしてラマダンの終わりが近づくと、誰もが「ラマダンがもっと続いてくれないかな‥‥」と思うのです。

ラマダンの特別なお菓子

ラマダン中には、各国で特別なお菓子が売り出されます。

エジプトではクナーファアターイフといった甘いお菓子を作って売る屋台が出て、カラフルな天幕で飾られます。

またタマル・ヒンディー(タマリンド・ジュース)、アルウース(甘草ジュース)、カマルッディーン(アプリコットジュース)など、ラマダンならではの飲み物もあります。

各家庭では、断食明けの祭りイードのために、「カハク」というお菓子を手作りします。

ラマダン中の旅行の注意

ラマダン中の旅行は全く問題ありません。むしろイスラムらしい、楽しい経験ができるでしょう。

ただし、これらのことは、あらかじめ知っておいた方が良いです。

レストランはほとんど閉まる

ほとんどのレストランは日中閉まります。テイクアウトだけに対応する店もあります。スーパーなどで食材を買ってホテルで食べることができます。

ただラマダン中は異教徒であっても人前での飲食はひかえましょう。

夕食を食べ損ねない

日中閉まっていたレストランも、イフタールの時間に開きます。そして皆が一斉に食事をします。ですから食べるものがすぐになくなってしまいます。

うっかり出遅れると食べるものがない!ということにもなるので、気をつけましょう。

役所などは早めに終わる

労働時間の短縮で、公的機関や商業施設が通常より早く閉まります。

博物館などは通常より早めの時間に閉館になるところも多いです。

お酒が飲めない

モロッコやエジプトなどイスラム圏には酒店があったり、お酒が飲める店があります。

しかしラマダン中は営業中止です。外国人向けのホテルのバーなどもお酒はありません。

ケンカや事故が増える

町中では空腹のために喧嘩が増え、交通事故も多い傾向が。

特にイフタールが近づくと、家路に急ぐためにスピードを出すドライバーが増えます。

ラマダンならではの楽しみ

ラマダンはイスラム教の国にいることを体感できる、またとない機会です。

日暮れ時が近づくと、町から徐々に人が姿を消していきます。イフタールに間に合うように、家路を急ぐからです。バスや車は猛スピードで町を走り、タクシーがなかなかつかまりません。

断食明けの30分前にもなると、町はゴーストタウンと化します。そんな中、時々猛スピードで走って行く車が。「イフタールに間に合わない!」と焦っているのです。そして断食明けの時刻になると、町に人っ子ひとりいなくなる‥

こんなとき、イスラム圏にいることをひしひしと感じます。そしてイスラムの人々の暮らしが「宗教」を中心に回っているということが実感できるのです。

神の食卓

イスラム圏の国々では、モスク前や町のあちこちで「神の食卓」が用意されます。裕福な人がイフタールを無料で提供するもので、誰でも食事することができる。旅行者もウェルカムです。

ラマダンを体験するのにおすすめの国は?

エジプト・カイロです。旧市街「イスラミックカイロ」はとりわけ華やいだ雰囲気につつまれます。

宗教歌手がコンサートを行っていたり、縁日のような出店が出て、輪投げや射撃ゲームを楽しむ子どもたちの歓声が響きます。

イスラム地区の中心にあるフセイン・モスク前の広場では、カフェで夜通し歓談を楽しむ人で賑わいます。老舗カフェ「フィシャーウィ」があり、断食明けの時刻以降は、座る場所がないほどです。

【イスラムの入門書】

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