中東イスラム圏の楽しみの一つ、それはバーザール(マーケット)で商品を値切ることです。
日本と違い、定価はありません。相手の言い値で買ってはいけないのです。
日本ではそういう習慣がないため、ついつい言われるままの値段で買ってしまう。
「日本人として知っておきたい世界を動かす現代イスラム」には、作家の五木寛之氏の小説「燃える秋」のエピソードが出て来ます。イラン・イスファハーンを舞台に書かれた小説です。
五木氏は、現地のバザールで買い物をした歳、商人の言い値で買った。その際店の老主人から、こう言われたそうです。
「あなたは急ぎすぎる。そんなに急ぐと大事な時間を失うことになる」
と言われたと書いています。
日本での買い物とは、値段が決められた商品の値札を見て、ただお金と交換するだけですが、中東のバーザールでは違います。
店に入ると、まずお茶が出てきます。そのお茶を店主と飲みながら、世間話をしつつ、商品の値段交渉に入っていきます。
日本とちがう時の流れ
「大事な時間」とは、そういった店主と値切り交渉を楽しむ時間だったり、旅のよもやま話を交換しあう時間だったり、そんなことを指しているのでしょう。
「われわれ日本人は、忙しく生活することで、人生における大切なものを忘れてしまっていることをこのエピソードは教えている。読書や思索、また文化や芸術など情操を豊かにするための時間を私たちは失い過ぎてはいないだろうか」
日本で暮らしているペースとは違う時間の流れを味わう。これもイスラムの国を旅する楽しみなのです。