目標を持ち、それに向かって努力することが良いことだと私たちは小さい頃から思わされています。
足らないところから発想し、どうやってゴールに近づけるか。
そのために頑張るのが良い、頑張らないのはダメというのが私たちの価値観です。
しかしこういう生き方は人生を豊かにしてくれるのでしょうか?
目次
ビジネス書の先にあるもの
一時期ビジネス書や自己啓発書が大好きで読みあさった時期がありました。
本田健、千田拓哉、勝間和代、神田昌典‥名だたるビジネス書の著者の本はほとんど読んだと思います。
ビジネス書の著者ではありませんが、ここで紹介する鎌田浩毅氏の本も、です。
ビジネス書は「これを手に入れれば幸せになれる」「こうすれば成長できる」「そのために〜が必要だ」と読む人を鼓舞します。
読んでいると不思議と自分が成長した気になるものです。
一種の中毒性があるのです。今はだいぶ読む量が減りましたが、本屋に行けば思わず手にとってしまいます。
でもある日ふと思いました。
「目標を目指して生きるのはいい。でもこれには終わりがあるのだろうか?」
目標に到着したら、また次なる目標が出てきます。
ずっと上を目指しながら生きていくのはつらいのではないか?
目標のために努力する生き方は、「今の自分では不十分」とし、不満を持ちながら生きることです。
それより、もう十分今のままの自分でいいんだ、と開き直ってしまった方が、楽に生きられるのではないか?
生きるとは目標を持つこと?
同じ頃、私はエジプトの遊牧民サイーダのところにたびたび通うようになります。
彼女は女一人でラクダに乗せられる荷物だけ持ち、毎日砂漠を移動しながら暮らしています。
生まれた時から家に暮らしたことがありません。
そんな自由な生き方と強さに魅了されて何度も会いに行きました。
しかし彼女の日常は、私から見て本当につまらない毎日でした。日々同じことの繰り返しだからです。
朝起きてお茶を飲み、放牧に出かけ、暑くなったら木の下に荷物を下ろして休み、日が暮れたら寝る。
「向上」や「成長」とは無縁です。
「こんな人生、生きている意味があるのだろうか?」
誠に失礼ながらも、しばしばそう思っていました。
しかし彼女はそんな一見「つまらない」毎日に満足しているのです。
そしてうれしそうに言います。
「見て。山の上から太陽が顔を出す位置は、毎日少しずつ変わるんだよ」
「毎日同じパンを食べてもね、焼き具合はその日その日で変わるから、ぜんぜん飽きないんだ」
本来生きるとはそういうものではないか?
と私は思うようになりました。
毎日同じことを繰り返すこと。
成長や向上に生きる意味があるのではない。
ただ生きていることに感謝して生きる。それだけでいいのではないか。成長も向上も目標もいらないのではないか。
「ぐっすり寝られてよかった」「朝ごはんが食べられて幸せ」でいいのではないか。
知らず知らずのうちに身につけてきた「これを手に入れれば幸せになれる」「まだあれが足りない」という考え方は理想的とは言えないのではないか?
今を犠牲にして未来のために生きる
『読まずにすませる読書術』を手に取った時、私が漠然と抱いていた想いが、見事に言葉になっていました。
『資本主義の世の中では、頑張ればお金や成功をいくらでも掴める。
逆にいつまでも現状に満足できず、常に「がんばりが足りない」「理想に近づけない自分」を持ち続けることにつながる。
それを解決するために、また新たなビジネス書や自己啓発書を買い求めてしまうことになりかねない。
そうした人生は幸せなのでしょうか?
「ないものねだり」が続く人生はつらいのではないか。』
今の社会は「目標過多社会」です。
いつも私たちには何かの目標がある。
1つに到達したら、次々に新しい目標が出てきて、それに追い立てられる。
人生はもっとゆっくり生きていいのに。
目標がある人生は、未来のために生きている人生です。
「今」が未来の犠牲になっている。
しかし未来はどうなるかわかりません。
目標に向けてがんばった末に病気になったり、死んでしまうかもしれない。
今自分は十分に持っていて、今のままの自分で十分に幸せなんだと発想を変えてはどうでしょう?
目標なき人生をいかに生きるか?
目標が必ずしも必要ないとしたら、どうやって生きていけばいいのか?
私はしばらく途方に暮れました。
そしてこう思うようになったのです。毎日を楽しめばいいのだと。
今日の卵焼きはうまく焼けた。
今日はぐっすり眠れた。
先週まで寒かったけど、やっとあったかくなってきた。
そんな日常の些細なことを喜び、楽しむ。
今すでにあるものに気づくことで、幸せになれるのではないかと思います。
「今、足りていないもの」を追い求めるのではなく。
「今の自分のままでいい」と思わせてくれる本
●『読まずにすませる読書術』
『「今のアナタにはこれが足りない」と、ひたすら煽る本は、読んでも人生を幸せにしてくれるとは思えない。』
『「必要なものはすでに自分にある」という気づきが大事。「足りないところはない。必要なものは既に自分は読んできた」と発想を変える。』
『「もし孤島に一生涯暮らすとして、そこに持っていけるのが50冊だったら、という視点で残す本を選ぶ。』
著者のこういった主張は、生き方にも通じていると思います。
「自分はすでに十分恵まれている」と気づくことで、頑張り続ける生き方とは別の生き方ができるようになる。
この本は、読書術のみでなく生き方を変えるインパクトがありました。