静寂と土のぬくもりに包まれたエコロッジ「Tazry」

エジプトのホテルtazry

Tazryの夜明け。湖畔に建てられている。

 エジプトのリビア国境に近いオアシスの村シーワ。ここにエコロジカル・ロッジ(=エコ・ロッジ)「タズリーTaziry」がある。
 「エコ・ロッジ」とは、その土地で得られる自然な素材を使い、周囲の自然環境を汚さないよう配慮して建てられたホテルのこと。建築にたずさわる人たちも地元の人を採用するなど、地元地域との協調性が高いことも特徴だ。

■人生をかけた決断

 エジプトのホテルtazryオーナーは、アレキサンドリア出身のムスタファさん・ナビーラさん夫婦だ。2人は2001年3月に初めて旅行でシーワを訪れ、その美しさに魅了された。毎年通ううちに、現地の知り合いに土地を紹介された。

「息子たちのために土地を買っておこう、くらいの気持ちだったんです」と奥さんのナビーラさん。土地は湖の湖畔にある大きな土地で、湖と椰子の木がとても美しかった。土地を分割するのはもったいない。「それなら、いっそのことホテルをつくろう」。

 とはいうものの、ムスタファさんは元住宅専門の建築家、ナビーラさんはインテリアデザイナー。ホテルの建築と運営は経験がない。積極的だったのはナビーラさんの方だった。「きっと、なんとかなると思ったわ」。

 それでも2人がシーワに移り住むのは、人生をかけたハードな決断だったという。アレキサンドリアでの生活、キャリア、友人関係をある程度あきらめる覚悟が必要だったからだ。

 

■伝統工法を学ぶ

 

 移り住んだ最初の1年間は、建築をせず、地元の伝統的な建築を勉強した。伝統的な工法で、エコロジカルな砂漠の気候に合うような建物を造りたかったからだ。「ここにはコンクリートの建物をつくりたくない。つくるべきではないと思った」とナビーラさん。地元の古い家を見て回ったり、人に話を聞いたりしながら、伝統的な建築様式を学んだ。

 

エジプトのホテルtazry

一つ一つの建物が独立している 家にいる気分でくつろげるようにとの配慮からで、テラスにいても他の部屋が見えないようになっている。建物は分厚い壁が屋根を支える構造。この厚い土壁のために冷暖房は不要だ。

 

 タズリーは、地元でとれる「カシャーフ」という塩分を豊富に含んだ土を主な材料にし、砂漠気候に適した厚い壁が屋根を支える構造で建てられている。厚い土壁には抜群の保温効果があり、冷暖房が不要だ。

 部屋は一つ一つ独立しているため、まるで自分の家のよう。それらが集まったタズリーは、さしずめ「一つの小さな村」みたいだ。

エジプトのホテルtazry

部屋にはそれぞれ名前がつけられている。これは「クーキー」。どの部屋もゆったりとした大きさ。「土や壁の色が濃いから、狭い部屋だと圧迫感がある。それに砂漠地帯では、狭い部屋は外の世界とのギャップがありすぎる」という考え方から。

すべての部屋が、それぞれデザインが違う。ゲストたちは、仲良くなると互いの部屋を訪問しあうという。

 

エジプトのホテルtazry-

スージの部屋。窓からは湖や遠くの砂漠が見える。

 最初に砂漠やサファリに行こうと思ってシーワに来た人も、ここに来て部屋から砂漠を見ることで満足してしまい、どこにも行きたくなくなってしまうという。

 天井の梁は椰子の木でできている。これも地元の古い家と同じだ。 椰子の木の中には虫がいて、時々小さな穴を作る。だからメンテナンスが必要。「部屋が生きている」ということでもある。

 

エジプトのホテルtazry

食堂。窓を開けると目の前に湖が広がる。

 電気はない。冷蔵庫がないため、食事は朝その日の注文を受けてから、午前中にマーケットへ買いに行く。食事はすべて奥様の手作りだ。

 

■廃れゆく古い家

 友人はアレキサンドリアに多いが、寂しいと思ったことはない。「いつも携帯で語り合うし、よくここを訪れてくれる。それにここはアレキサンドリアみたいに車の渋滞もないし、騒音や排気ガスもない。満月の時はランプがなくても外を歩けるんですよ」

 近年シーワでは古い家を捨てて、新しくコンクリートの家を建てて移り住む人が増えている。「だから古い家はだんだんと廃れ、建築方法を知る人も少なくなってきているんです」とムスタファさんは嘆く。「コンクリートの家は夏とても暑く、冬は寒い。そういう家でエアコンを使って生活することがモダンなことだとシーワの人は思っている。私たちのような近代化に疲れた人間は古いものを恋しがり、そうでない人は近代化したものを恋しがる。世の常ですけどね」

エジプトのホテルtazry

くつろぎの間lobby1

 ここでは電気はなく、夜はガスランプの明かりのみ。静寂とほどよい闇につつまれた夜は、宿泊者たちに、ゆったりとした落ち着いた気持ちをもたらしてくれる。ここに泊まると誰もが、まず時計をはずし、そして携帯のスイッチを消すようになるそうだ。
 祖国を捨てて自分たちの住処を探し世界中を旅しているイギリス人夫婦のゲストは、言ったそうだ。「世界で住みたいと思ったところが3つ。アイルランドのどこかの島ともう一つはタズリー」。