週刊新潮モロッコ of FUJIYO TSUNEMI PHOTOGRAPHER

モロッコのカスバを巡る

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モロッコのアトラス山脈を越えた南側、ワルザザートから東のエルラシディ
アを結ぶ道はカスバ街道とよばれる。カスバとは住居を兼ねた要塞で、集合住
宅形式のものが多く、数世帯が共同生活している。7世紀にアラブ人がモロッ
コ北部を征服した際、そこに暮らしていたベルベル人は、その支配から逃れる
ためにアトラス山脈を越え、川沿いのオアシスなどにカスバを築いて移り住ん
だ。敵の侵入を防ぐため、カスバは入口が一つのみで、一階に窓がない強固な
造りとなっている。国内には1000ほどのカスバがあるといわれるが、ほと
んどがカスバ街道に集中している。
IMG_3831.jpg しかし近年人々が個の暮らしを好むようになったり、コンクリートの材料が
手に入りやすくなったりしたため、カスバに暮らしていた人々は、周囲に新し
い家を建てて移り住むケースが多い。日干し煉瓦や土でつくられているカスバ
よりも、コンクリートの家の方がメンテナンスが簡単だからである。
 アイト・アルビは、街道きっての美しいカスバとして知られる。オリーブや
いちじくの木が茂り、緑豊かな田畑が広がる川沿いの道をカスバに向かって歩
いていると、家畜の飼料となる草をロバに摘んだ女性に声をかけられ、自宅に
よばれた。砂糖がたっぷり入ったお茶や手作りのクッキー、なつめやしなどを
ごちそうになりながら話をする。

IMG_4174.jpg 彼女の家族は、十年ほど前にカスバから新しい家に移り住んだ。数家族が集
まってカスバに暮らしていた頃は、よく互いの家を訪ねあい、一緒に食事をし
たそうだ。一つの門から、昼間は住人だけでなく、行商人や説話師、家畜売買
人など様々な人が出入りしていた。毎日日暮れとともに門は堅く閉ざされたと
いう。
IMG_4090.jpg 彼女の家を後にした私は、カスバに入ってみた。厚い土壁で造られたカスバ
は、外の暑さが嘘のように涼しかった。薄暗い廊下を歩いていると、賑やかだ
った当時の人々の声、人の往来の物音がふと耳元に聞こえる気がした。