「週刊朝日」魅惑の千夜一夜

週刊朝日「魅惑の千夜一夜」(1) 週刊朝日「魅惑の千夜一夜」(2) 週刊朝日「魅惑の千夜一夜」(3) 週刊朝日「魅惑の千夜一夜」(4)(「週刊朝日」2008年8月15日号)

(本文)
今から約十年前。写真のテーマを探してアジア、中東を放浪し、その果てにたどり着いたエジプト。ちょうどラマダーン(断食月)の最中で、着いたその夜、道端にテーブルを並べて、断食明けの食事を楽しむ人びとに誘われ、ごちそうになった。以後、通うこと十数回。知り合えば気軽に家に呼んでくれ、道を聞けば、目的地までわざわざ連れて行ってくれる―そんな人と人との温かなつながりが、私を惹きつけるのかもしれない。
 近年、古代遺跡でますます注目度を高めつつあるエジプトだが、魅力はそれだけに終わらない。最近では、チェーン系ホテルとは異なる、デザイン性に優れた個性豊かなホテルが次々と登場している。いわば、滞在そのものを楽しむようなホテル。デザイナーやオーナー自らの手でデザインされたそれらのホテルは、中東ならではのオリエンタルなムードに包まれ、一部屋一部屋に心をこめた、ぬくもりや温かみを感じさせるインテリアが、自分の家にいるようなくつろぎを与えてくれる。
 リビアとの国境に近いシーワ・オアシスには、環境に配慮し、地元の自然の素材で建てられたエコロッジも生まれている。電気はなく、キャンドルとガスランプの灯りが醸し出す幻想的でロマンチックな夜。日常から離れ、ゆったりと流れる時間の中で、滞在客は誰もが自然と時計をはずし、携帯のスイッチを切るようになるという。
 あるホテルで出会った、終の住処を探して世界中を旅しているイギリス人夫婦がいった。「今まで住みたいと思ったのはアイルランドとタヒチ、もう一つはここ」。
 そのホテルに泊まりたいから行く、そんな旅がしてみたくなる。
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