「まほら」消えゆく船の民 パキスタン・マンチャール湖

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パキスタンのシンド州にある国内最大の淡水湖マンチャール湖。この湖には約40家族が船を住居として暮らしている。
そのうちの一つ、ジュマン(52歳)さんの家に滞在させていただきた。ジュマンさん夫婦と6人の娘さん、4人の息子さん達がひとつの船で暮らす。
ジュマンさんの船の周囲には、100メートル四方に7つの船があり、みな親戚である。どの家もジュマンさん宅同様子だくさんのため、湖には始終、子供たちの歓声が響いている。
船の暮らしは、大きく湖に依存している。食べ物の9割は湖でとれる魚や水鳥でまかなわれる。料理の燃料は湖に生える葦を使う。この葦は船を造る材料になる他、船内や屋根の上に敷くござの材料としても使われる。
食べた食器は湖の水で洗い、その際には、料理の時に出た炉の灰を使って汚れを落とす。
子供の遊び道具は、もっぱら湖で採れた鳥や魚である。
漁に出るのはジュマンさん、長男のモンターズさん(24歳)で、いつも夜明け前に漁に出かけ、網を張り、翌朝獲物を取りに行く。
水鳥を捕るには、彼ら独特の知恵が使われる。カセットテープに水鳥達の鳴き声を録音しておき、船で漁に出た際、その鳴き声を流す。鳥たちは鳴き声を聞いて集まってくる
ジュマンさんは、魚を近くの村ボドックの市場で売り、一日200ルピー(約200円)ほどを稼ぐ。毎日15kgほどの魚がとれるそうだ。
20年ほど前には、湖には1000家族ほどが船で暮らしていたという。しかし今は40家族に減少してしまった。湖の水が汚れ始め、生活に適さなくなったからだ。
湖にはバロチスタン州にあるカーサー山脈からの雨水が流れ込むが、近年その水量が減少し続けるとともに、10年ほど前から近隣の工場や農業排水が流されるようになった。
ジュマンさん達は、以前は湖の水を飲んでいたが、今ではそれも不可能になった。また
水がきれいだった頃は一匹で3kg、5kgにもなる大きな魚がとれたが、今はせいぜい大きくても1kgどまりだ。
湖はシベリアから冬に渡り鳥がやってくる場所だが、その数も1988年には25000羽だったものが、2002年には2800羽と約10分の1に減少している。野鳥の餌になる魚が減少したためである。
ジュマンさんの兄の家族は、6ヶ月ほど前に湖の上を去り、陸に暮らすようになった。船を売って土地を買ったという。
それでも、ジュマンさんは「魚がとれ続ける限りは湖の上に住む」と決心は固い。