「女ひとり、イスラム旅」(朝日新聞出版)

「怖い」「危険」とイメージされがちなイスラム圏。しかし実際には世界一旅人にあったかく、旅がしやすいのがこの地域です。出会ってすぐに家へ招かれ、外食すれば知らぬ間に誰かが代わりにお勘定、町を案内してくれたちょいワル青年はお年寄りに親切。沢山の出会いから日本が知らなかったイスラムの意外な姿が見えてきます。

【目次】

はじめに

<第一章> チュニジア
第一話 ベッドでパシャリ
第二話 花嫁がハッピーなら即妊娠
◆コラム◆イスラムとセクシー下着

<第二章> ヨルダン
第一話 恐母のおふくろの味
第二話 一人では、パラダイスを見たことにならない
◆コラム◆イスラムの国ではお酒は飲めない?

<第三章> パキスタン
第一話 消えゆく湖上の暮らし
第二話 会ってブサイクだったら?
◆コラム◆イスラム圏でタブーな言葉

<第四章> モロッコ
第一話 酒とハシシと、預言者の妻
第二話 カスバの美女と肌のふれ合い
◆コラム◆ラマダンは楽しい

<第五章> オマーン
第一話 山奥の桃源郷
第二話 人は見かけで判断する
◆コラム◆イスラムの国を旅する服装

<第六章> エジプト

第一話 真っ赤な新婚サプライズ 第二話 老ロバの尻をムチ打って
◆コラム◆イスラムの男性にプロポーズされたら?

<第七章> シリア
第一話 現役はマッタ・隠居はトランプ
第二話 村長の驚きの記憶力
◆コラム◆一夫多妻で女性がトクする?

 

【内容紹介・感想】 「一冊の本」 読書メーター ブックログ

女ひとり、イスラム旅(「女性情報」2015年4月号)

 

【はじめに】

突然だが、世界で最も安全で旅しやすいのがイスラムの国。そう言ったら驚かれる方もいるだろう。もちろん紛争など問題を抱える場所は別だ。
私とイスラムの国との出合いは、はるか二十年ほど前だ。OLをやめてフォトジャーナリストになろうと思った私は、写真のテーマを見つけるために世界一周の旅に出た。
出発は東南アジアの国タイ。そこから列車やバスを乗りついで西へ向かった。その途上、イスラムの国々に出会ったのだ。
イスラムの国に行く前は、「危ない」「治安が悪い」「テロ」、そんなイメージを持っていた。しかし現実はまったく違っていた。
バングラデシュでは、たまたまバスで隣り合った紳士にホテルの場所を聞いたら「私の家に泊まりなさい」と言われ、数日間彼の家にお世話になった。パキスタンの食堂で食事をしていたら、見ず知らずのお客が会計時に、勝手に私の食事代も払ってくれた。イランではモスクで知り合った女性の家に数日滞在した。その家で激しい下痢になり、病院につれていかれが、治療費を断固として私に払わせなかった。
その後シリアでもヨルダンでもエジプトでも、知り合ったばかりの人の家に呼ばれ、泊まっていけと言われることが続いた。
実はそれ以前、私は大学を休学し、インドネシアを半年間放浪している。そこでも現地の民家を泊まり歩いた。バスで隣り合い、二言三言話しただけで、「家に来い」「泊まっていけ」と言われるからだ。こんな日本の常識を超えた親切は、インドネシア特有のものとばかり思ったいたが、どうやらイスラムの国では、よくあることらしい。
エジプトにたどりつく頃には、イスラム世界の魅力にハマっていた。そして当初の目標である世界一周をとりやめ、エジプトにしばらく居座ることにした。
一応「アラビア語留学」と称してはいた。イスラムの国のことをテーマにしよう、それには言葉が話せた方がいい。そんな考えだったが、アラビア語の難しさに早々と挫折してしまい、ろくに学校に行かず、カメラを持ってブラブラしたり、知り合った人の家に上がりこんだりということを続けた。結局一年で帰国した。
以来、イスラムの国への旅を続けている。それらは取材だったり旅行だったり、どちらとも判別つかないものもある。これまで二十年近くイスラムの国々を旅してきたが、一度も命の危険や強盗などの犯罪に遭ったことはない。これまで、アメリカ、ヨーロッパ、アジアにも行ったことがあるが、それらと比べて最も安全で人が親切なのがイスラムの国々だ。「世界一」とは断言できないが、近いものはある。
これは宗教が生活に根付いているせいもあるだろう。今は少しばかり状況は違うものの、アラブの春以前は、エジプトやシリアなどでも、夜中の女性の一人歩きは全く問題なかった。
イスラムの国は女性が旅するのが大変。これも全くの誤解だ。むしろ女性の方が旅がしやすいと言える。
イスラムは女性を大切にする宗教だというのは、日本ではあまり知られていない。女性は守るべきものとされているため、一人旅の女性は何かと気にかけてもらいやすい。バスに乗れば、自分より明らかに年上の男性が席をゆずってくれる。駅の切符売り場に人がわんさか押しかけている時でも、女性なら一番前に割り込むのもOKだ。
イスラムの国では、学校も結婚式も男女別々。だが外人女性なら男女双方の場に受け入れてもらえる。そして現地の女性なら足を踏み入れないような親父ばかりのカフェにも、外国人ということで入ることができる。イスラムの国を旅する時ほど「女に生まれてよかった」と思うことはない。
とにかく先入観がくつがえされる、これが旅の楽しみだとしたら、イスラムの国はダントツだ。
今回幸運にも、イスラムの国についての本を書く機会をいただいた。
もちろん私はすべてのイスラムの国に行ったわけではない。足を運んだ地域も関わり方も偏っている。数え切れないほど通った国、住んでいた町もあれば、一度行っただけの国もある。そんな私がイスラムの国云々について語るのは、厚かましいことこの上ない。
本書にはピラミッドや遺跡など有名な観光地も出てこない。代わりに登場するのは、ごく普通のイスラムの人々だ。彼らと、砂糖たっぷりの激甘紅茶を味わい、ニンジンやズッキーニがゴロゴロ入ったクスクスを食べ、結婚ほやほやカップルに初夜のノロケ話を聞き……という、いわばふれあい的エピソードがおさめられている。
なお、女性の名前を人前で声高に言わないというイスラムの習慣にならい、本書では女性の名前はすべて仮名にさせていただいた。
これを読んで、イスラムの国に少しでも興味を持ってくださる人がいたら、これ以上嬉しいことはない。
それでは、イスラムワールドへようこそ!